神殿岸2

2と言っても実質1.5みたいなもの

アナハイム・ジャーナルと08小隊と核爆発

前回の記事の続き。
機動戦士ガンダム第08MS小隊」(08小隊)は劇中劇、つまりガンダム世界内の映画として扱われている、という話がある。
これはアニメ中でそう言われているわけではない。
この話の発生源は「機動戦士ガンダム公式設定集 アナハイム・ジャーナル」という本で、他の本にはそんな話は載ってない(と思う)のだが、この原文が非常に厄介な書き方になっていて、内容も正確に伝わっているか怪しいところだったりする。

この本についての話。

アナハイム・ジャーナルがどういう本か簡単に説明するが、これは「宇宙世紀0099年に発行されたアナハイムエレクトロニクス出版の雑誌」という体裁になっている。
だから文章は宇宙世紀0099年時のガンダム世界の人間の立場で書かれていて、その時点で公になっていない情報は載っていないし、アナハイムに都合の悪い情報が伏せられている箇所もある。
公式設定集と銘打ってはいるが、中身は0099年のライターが間違えている、または知っててごまかしてる可能性があるわけ。

08小隊に関する話が載っているのは48ページからの記事「Moonbase'99 Factory Report Von Braun/Granada」。この記事はAEフォン・ブラウン工場でのジェガンの製造過程についての取材記事という体裁になっている。(読み直して思ったがグラナダは出てこない。これはシリーズ連載で、別の回で行ったのかも)

ここで記者にフォン・ブラウン工場を案内してくれた「AE機動機器のビル・ホーガン」という人物が出てくる。そのホーガン氏が核融合炉について語るくだりがあるのだが、内容を簡単に説明すると核融合炉が核爆発するわけねーじゃねーか」というシンプルで至極もっともな話である。
取材したライターも「D+3He反応で汚染があるわけねーじゃねーか」と書いている。派手な爆発を起こすのは燃料タンクの推進剤なんだと。
で、この後にこういう文章が続く。
「以前、一年戦争のアジア戦線を舞台にしたロマンス映画で、MSが『歩く核爆弾』のように描かれていた。ひどい嘘だ。(後略)
これだけである。
08小隊のこととは書いてない。しかし08小隊以外のものとも思えない。MSが核爆発するアジア戦線のロマンスというのはピンポイントすぎるだろう。

同じページの少し前の行に、組み立てチームが「エレドア・マシスの古いヒット・ナンバーを流して楽しんだりしていた。」という文がある。つまり本書のために映画疑惑の持ち上がっている08小隊の登場人物であるエレドアは、本書では実在するものとして扱われている。
と同時に、「ロマンス映画」が08小隊であることを読者に意識させるアピールにも見える。

このページの解釈は分かれている。
ジャーナルを全面的に肯定するなら、08小隊は誇張混じりの映像ということになるのだろう。
エレドアは実在人物だが、実際どこまで正しいのかわかったもんじゃないと。少なくとも核爆発に関しちゃ嘘ということになろう。

ジャーナルのここを否定する場合、「本当は核爆発は起きるのだがアナハイムにとって都合が悪いので安全であるような書き方をしている」という解釈が優性なのかな。本書の書き方は「原理的に核融合炉が爆発するわけねーじゃねーか」と書いてあるように見えるので、個人的にはこの解釈にこそ違和感あるのだが、まあいい。

しかしここでジャーナルの「核爆発しねー」がアナハイムのウソだとするが、それだと08小隊が映画という仮定は別に崩れてないのでは……?と思うのだが。
これだと08小隊が「核爆発(誇張)を起こす映画」から「核爆発(実は正しい)を起こす映画」に変わるだけじゃなかろうか。
あれは実話に基づいた映画なのだから実話として扱っていいのか?それともホーガン氏の語る映画は我々の見た08小隊とは関係ないのだろうか?映画の存在そのものがウソなのか?
映画?ガンダムのアニメって何?記録映像なのか再現映像なのか全部映画なのか?

ホーガン氏とライターが本当はどう思っているのかはわからない。
記事の後半はフォン・ブラウンのイオタ工業に場面が移るが、そこでギラ・ドーガの話が出てきてAE製であることを完全に隠蔽した書き方をしている。ライターはギラドーガがAE製造だと知らないのか知ってて隠したか、それもわからないのだ。
いずれにしろ、僕はこの核融合炉の説明はアナハイムに都合が悪いことを誤魔化したというふうには解釈したくないのだが、どうでもいいといえばどうでもいい。

アナハイム・ジャーナル」自体の扱いもよくわからない。当時は「映像化されたものだけが公式」が一人歩きしてた時期だったはずで、その中にあって「公式」をうたう書というのは異例だった。
しかし、振り返ってみるとこの本はどうも公式設定化してないように見える。この本の軸のひとつは「0099年にガンダム開発計画の情報が公開された」なんだが、定着してるとは言い難いし、『クラブ・ワークス』とかZ計画のスタッフとか他の本で見たことがない。僕が知らないだけなんだろうか。
スウィネン社の件が本の扱いに影響した?
おそらく本書の設定で一番広まったのはスウィネン社という存在で、二番目が08小隊劇中劇説じゃなかろうか。
どちらもこの本全体から見ると重要な部分ではない。「スウィネン」は付録のポスターにロゴマークとわずか2行の解説しかないのだ。

なぜかガンダム界は「公式」という言葉に非常にデリケートである。この本が公式設定として扱われているのかどうか僕にはわからない。
また公式であったとして、公式を冠してないものと違いがあるのか、それさえ本当にわからない。
08小隊は映画じゃないかもしれないし映画かもしれない。核爆発は起こるかもしれないし起こらないかもしれない。
確かに言えるのはアナハイム・ジャーナルという本では08小隊らしきものを映画みたいに書いてある箇所がある」というところまでである。