ベルモンド家に伝わる鞭の名前は「ヴァンパイアキラー」という。
11世紀の錬金術師、リナルド・ガンドルフィーの手によって作られた武器であり、吸血鬼たち夜の一族に対して絶大な力を持つ。
しかし、その出自はベルモンドの血筋と結びついており、ベルモンド以外の者にはその力を発揮することはできない。
例外として、ベルモンドの分家であるモリス家であれば、リカード家の協力によってヴァンパイアキラーを使うことができた。
ベルモンド家は19世紀に姿を消しており、鞭はモリス家に預けられた。これが現在広く使われている設定だ。
これらの設定は、2002年の『白夜の協奏曲』以降の複数の作品で構成されていったものだった。
ヴァンパイアキラーの初出作である94年のメガドライブ『VAMPIRE KILLER』には、こうした設定はまだない。
『VAMPIRE KILLER』の説明書は現在公式に公開されている。ベルモンドの血筋であるモリス家に伝わる「妖鞭バンパイアキラー」だが、その由来は何も書かれていない。バンパイアキラーがベルモンドから借りたものだという話も書いていない。
数年前、この説明書を読んでから引っかかってたことがある。制作者の意図する「バンパイアキラー」は、もともとモリスのものではなかったのか?
情報は突然飛び込んできた。こちらのポストを検索で見かけ、掲載誌を取り寄せました。
電撃PCエンジン1993年7月号。『悪魔城ドラキュラX 血の輪廻』の発売前特集が掲載されている号で、製品版にはない珍しいイラストも掲載されているのだが、重要な情報が載っているのはそこではない。
120ページの「猿(マニア)養成所」というコーナー。ここに発売前の悪魔城ドラキュラXと関連し、コナミの広報からの情報が掲載されている。
内容は以下の通り。
- ドラキュラとの最古の対決は15世紀中頃『悪魔城伝説』。主人公はラルフ・クリストファー・ベルモンド。
- サイファ・ベルナンデスとラルフの子の一人がGB『ドラキュラ伝説』(16世紀前半)の主人公、クリストファーである。
- 『悪魔城ドラキュラ』(17世紀中頃)のシモン。
- リヒターがシモンの約100年後、ジョニー・モリスがリヒターよりさらに約200年後の設定。
- 「ベルモンド家に伝わるムチ(妖鞭)は「エクスカリバー」、モリス家のものは「バンパイア・キラー」」
- ラルフからジョニーの代までのベルモンド家の家系図が掲載。
とんでもない情報が掲載されていた…
内容の検証
- ベルモンドの鞭はエクスカリバー。
バンパイアキラーは元からモリスの鞭であり、最初から別のものだった。少なくともメガドライブ版開発時点では。
説明書にベルモンドから渡った経緯が書かれていないのは、その設定そのものがなかったからだ。
- ラルフのミドルネームはクリストファー。
ベルモンドの先祖の英雄クリストファーの名は初代『悪魔城ドラキュラ』の説明書にあったものだ。
ラルフ・C・ベルモンドのミドルネーム「C」はクリストファーの意図ではなかったのか、とはよく言われていたが、明確な裏付けはなく、別のクリストファー・ベルモンドが同時期に登場していたため、あまり考察されてこなったのだが…ここにはっきり書いてあった。
そして悪魔城伝説は15世紀中ごろとされている。現在の設定ではラルフの戦いは1476年に確定しており、中ごろと言うには数十年ずれている。
- クリストファーはラルフの息子。
そして、クリストファー・ベルモンドはラルフの息子。クリストファーは歴史上2人いたのだ。年代もラルフから1世代後。ラルフが15世紀中ごろだとすると、世紀をまたぐのは無理がある気がするが…
現在使われている年表ではクリストファーはラルフから100年後の子孫であり、息子ではない。年代は1591年で、16世紀末だ。
- シモンは17世紀中頃の人物。
シモンはクリストファーの100年後の人物という初代の説明書の設定があり、それに合わせたものと思われる。
現在の年表ではシモンの戦いは1691年であり、数十年ほどずれがある。
- リヒターはシモンの100年後。
リヒターの年代は18世紀中ごろが想定されていたようである。やはり現在の設定と数十年違う。
- ジョニーはリヒターの200年後。
『VAMPIRE KILLER』は20世紀前半の1917年とゲーム中ではっきりしており、電撃PCエンジンの設定に基づくと数十年ほどのズレが生じる。
だが18世紀中ごろのリヒターから170年くらい後だとすれば、だいたい200年後みたいなもんか?
このように電撃PCエンジンの設定は現状の年表にある程度似ているが、年代はどれも明確ではなく、全体的にズレがある。そして、ドラキュラが100年に一度復活するという設定については、無視されている。
現状でも無視されているようなものではあるが、無視しつつも一定の配慮はあるというのは以前の記事で書いた通り。
- 全く知らない家系図
ラルフとサイファにはクリストファーを含む4人の子がいたことになっている。その一人、フレデリックの子孫がシモンで、シモンはクリストファーの子孫ではなかったのだ。リヒターもシモンの子孫。
他の子たち、メアリーの子孫はヘルシング家となり、子孫の名はヴァン。アンの子孫はモリス家となり、キンシー・モリス、ジョニー・モリスへとつながる。そしてジョニーの母の名はミーナ。原作(吸血鬼ドラキュラ)と違う。
ソレイユの子孫は「???」と書いてあり、不明。クリストファには『ドラキュラ伝説II』に出てきたソレイユのほかにも二人の子供がおり、ゲルハルトは変死、もう一人の子のアマンダがレイフ・エリクソン(実在人物モデルのようだが時代が全然違う)と結婚し、エリクソン家として存続した。その子孫の名はボルト。
アニバーサリーコレクション収録資料に掲載されている『VAMPIRE KILLER』の没キャラクター、ボルト・エリクソンだ。こんなところでつながってくるとは…
他にも途中の人物の名前が多数設定されており、一定の構想があったことがわかるが、現在の設定に出てくる人物はキンシー以外いない。
ただし、クリストファーよりラルフのほうが古いという設定だけは既に完成していた。
現状での扱い
現状の年表については以前書いた記事にまとめた通り。
長いけど興味あれば読んでください。
現状ではクリストファーはラルフの息子ではないし、シモンについてもクリストファーとソレイユの直接の子孫と考えられている(『キャッスルヴァニア公式攻略ガイド』の系譜図)
またドラキュラは100年に一度復活するという設定だが、この電撃PCエンジンの資料では使われていない(『血の輪廻』では使われている)。
そもそも雑誌の1コーナー向けの情報なので、あまり厳密に考えたものではないのかもしれないし、広報のフィルターで情報も変わってるかもしれない。しかし、現在の年表が書かれるまでの前段階としては既に完成しつつあったと考えられる。
年表形成過程は以前も考察したが、15世紀の『悪魔城伝説』は、のちの設定で厳密に1476年に確定している。これはドラキュラ2のエンディングで見られる情報と、史実のドラキュラ公の没年に基づくものであり、強い根拠がある。そしてラルフが最初にドラキュラを倒した人物に定まる。
ここで電撃設定とは数十年のズレが生じた。
ラルフのミドルネームについては、クリストファーと分離したもののやはりラルフが初代説明書にある英雄クリストファーであると解釈しようとしたのだろうが、親のミドルネームをファーストネームとして受け継ぐのは変な気もするし、これは現行設定では回避したのだろう。
(最新作の悪魔城GoSでは「英雄クリストファーが最初にドラキュラを倒したと思われていたが、のちにラルフの存在が判明した」という新たな解釈を加えていた)
家系図については、ボルト・エリクソンについてはゲームに出すつもりで設定したものと思われるが、あまり細かく設定してもゲームに出てこないものはしょうがない。以降この家系図が無視されたのはやむなしと言える。
というか、コナミ内でも知られてたかどうか。この設定は断片的に現在の設定と一致するが、偶然あってただけ、もしくは書いた人が覚えてたとしても雑誌等に公開した自覚があったかはわからない…
ヴァンパイアキラーについて
問題はエクスカリバーだ。のちの設定でベルモンドの鞭はドラキュラと対決する遥か前の11世紀からヴァンパイアキラーだったことになり、エクスカリバーは完全になかったことになった。モリス家に渡されたことは19世紀のベルモンドの衰退設定とも強く結びついており、動かすことは不可能。
知らなかったのかもしれないし、無視したのかもしれない。
ゲームだけ追ってると分家の鞭の名前から先に明かされたのは変ではあるのだが、実際はエクスカリバーの名は同時に出ていたものだった…
メガドラ版の説明書に書き忘れたのだろうか?
経緯はわからないがエクスカリバーについては完璧に忘れられた。それ以上言えることはない。そして忘れておくしかないだろう。
この「電撃PCエンジン1993年7月号」は、2024年4月時点では日本の雑誌をくまなく調べている海外サイトでも知られていないようであり、こうして記事にしたことでやがて広まっていく可能性自体はあるが…
現状の設定との矛盾は多く、コナミ側で公式資料としてよみがえってくることはおそらくないだろう。たぶん…いや…でもボルト・エリクソンは没とはいえ公式の資料に載ってたわけだな…
海外情報について
今回の情報を見つけ出せたのも、きっかけ自体は海外情報だった。
非公式な話題なので細部は省略するが、94年にシカゴのコナミから送られたVAMPIRE KILLER (Castlevania: Bloodlines)の制作資料(英語)の一部と思われるFAXが出回っており、実はエクスカリバーのことはそこに書いてあったようなのだ。
それで、もしかして日本語でもエクスカリバーのことが公開されていたのではと思い調べていたところで、今回の資料に到達した次第となる。
この流出FAX、元は日本語から訳したものと思われ(Arcardoなど明らかに不適切な翻訳が混ざっている)、ここにしか書かれていない情報もあるようだし、電撃PCエンジンにしかない情報もあるようだ。
だが、家系図については今回の電撃PCエンジンの資料と完全に一致していた。
電撃の記事のほうがFAXより先だが現時点でも海外で知られている様子がなく、流出資料の信憑性が強まる結果となった。
と同時に、非公式だと考えられていた設定が一部は公開情報だったことを、ここではっきりさせておこう。
割かし入手しやすい範囲に、まだこんな資料が眠っていたことに驚いた。
まだまだきっとこんなことは起こると思う。
電撃PCエンジンについて
電撃PCエンジン、表紙では特にわからないが駿河屋では成人向け商品として扱われている。
なぜかというと、中身にPCエンジンのエッチなゲームの絵が載ってるからです。この号も女らんまの乳首画像などが堂々と掲載されていました。
日本でも一部の中古ショップではポルノ扱いということであり、海外でも同様の心配があります。輸出される方は注意してください。
誰向けの注意だろう…