2023年9月16日、突如としてSteamで『ウィザードリィ』1作目のリメイク『Wizardry: Proving Grounds of the Mad Overlord』(日本版タイトル:ウィザードリィ 狂王の試練場)がアーリーアクセス版で配信された。
これまで、ウィザードリィには版権問題があることが知られていた。
現在ウィザードリィを販売している日本のドリコム社が所有しているのはWiz6以降の権利のみ。
5以前の権利は別の誰かが所有しており、この協力がなければ初期作品の移植やリメイク等は不可能と考えられていた。
だが、これが誰なのかは全くわかっていなかった。
Steamで配信されているリメイク版の権利表記はこう。
開発・販売を手掛けるDigital Eclipseと、版権を持つドリコム 。そしてもう一つ「SirTech Entertainment Corp.」から「狂王の試練場」のライセンスを与えられている、と書いてある。かつてWizardryを販売していたSir-Tech Software, Inc(サーテック)と関係がありそうだ。
mobbygamesによるとこのSirTech Entertainmentは2022年に設立されたもので、創業者はかつてのサーテック創業者のRobert Sirotek氏の会社とのことだ。
この会社がおそらくWiz1から5までの権利を所有しているのだろうと考えられた。これもドリコムの決算資料から確認が取れた。
[PDF] 2023.10.26 2024年3月期 第2四半期 ファクトシート
17ページに「Wizardry1-5の著作権はSirtech Entertainment Corp.が保有しており許諾の元に開発されております」と書いてある。
いろいろあったけど、サーテック後継会社に権利は引き継がれたようで、連絡も取れる会社のようでリメイクも制作可能になった。めでたしめでたし。
ここに至るまでの経緯は多くが謎のままだ…
アンドリューは権利持っていないらしい
ウィザードリィの版権表記は時期によって違うわけだが、ずいぶん古いスティングのワンダースワン版ウィザードリィの公式サイトを見ると「Proving Grounds of the Mad Overlord」の権利は作者アンドリュー・グリーンバーグとサーテックの両方が持っていることになっている。
どうも両者で初期シナリオの権利を折半していたということだろうか。
わかっているのはアンドリュー・グリーンバーグとサーテックが長いことWizardryの権利について係争していたということだった。
最終的に2012年ごろに和解して、サーテックがアンドリューから権利を買い取ったと伝えられている。2019年にそう伝えている英語の記事がある。
この記事あってんのだろうか。2012年には、もうサーテックは存在しなかったずでは…?
FRP Assetsの正体
そんな事情は知らぬ頃、2016年12月29日にNHKで放送された「ドラゴンクエスト30th~そして新たな伝説へ~」という番組があって、ここでAppleII版Wizardryの映像が流れたのだが、その権利者として表記されていたのが「FRP Assets」だった。
なんだこりゃ?
この団体、この番組でいきなり名前が出てきて注目されたが、元ゲームポットの谷内義人氏が2022年に明かしたところによると、これも創業者のシロテック氏の会社だったとのこと。
つまり、アンドリューが既に存在しないはずのサーテックに権利を売り渡したというのは、何のことはない、元サーテックのシロテック家自体はその後も継続して存在しており、裁判を続けていたのだろう。
この和解時にサーテックがFRP Assetsだったかどうかは定かでないが、実質は同じ団体だった可能性が高い。
FRP Assetsが得た権利がどこかに売り渡されたかどうかは定かでないが、今の権利を持ってるのも創業者のロバート・シロテックであり、2016年以降に途中で別の一族に渡ったのを買い戻して今に至るとは…ちょっと考えにくいかな。
少なくとも、もし手離していたとしても、買い戻せるような相手だっただろうということになる。
年表
2020年10月 ドリコムがWizardryの著作権と商標権を取得
2021年6月 五つの試練のSteam版が発表されるも発売延期
2021年12月 五つの試練配信開始
2023年9月 狂王の試練場配信開始。開発期間は2年と伝えられる。
つまりドリコムが版権を取得した翌年、五つの試練がちょうど発表されたあたりでリメイクを作り始めてたということになる。