神殿岸2

2と言っても実質1.5みたいなもの

ドム・フュンフとリック・ドム[シュトゥッツァー]

ADVANCE OF Zに登場するリック・ドム[シュトゥッツァー]というモビルスーツがあるが、これのベースになっているものがドム・フュンフであるという情報がネット上に広まっていることについて触れる。

説明が長くなるので、最初に一番重要な部分だけまとめる。

・「AOZでシュトゥッツァーのうち1機の素体がフュンフであると設定された」という情報がWikipedia「ドム」に2012年の段階で書き込まれる。
・そこから「リック・ドム」の記事にも同じことが書かれ、各サイトに広まっていく(よくあること)
・AOZを読んでもそんな設定は書かれてない。

いや、正確にはAOZ中にそのように解釈できなくもない記述が辛うじてある。「フュンフ」という名前は出てこないが。
出てこないのに「設定されている」と書いちゃっていた。

「シュトゥッツァー」のベースになっているドムが「ドム・フュンフかもしれないと思える特徴を持ったデザインのドム」なのは確かである。
けど設定としては書いてない。

ところで大半の人には「ドム・フュンフって何だよ」といった感じだと思うし、僕自身も正直よくわかってないい。
いや、わかってる人がいるのか?
フュンフとはいったい何なのかという話も交えて探っていきたい…

MS-09F「ドム・フュンフ」とは、『0083』の設定中で少しだけ言及されている、実態のよくわからないモビルスーツだ。
なんでもMS-09F/Trop「ドム・トローペン」の元となったドムらしい。

ここまでは正しいようなのだが、この設定がどこから出てきたか、僕には既によくわかってない。
このマイナーなだけの「ドム・フュンフ」なるものの存在を知っていて、妙に広めようとしてる人たちが、肝心な出典とかわかってる範囲の情報がどこまでかとか書かないで、勝手にまとめたり付け足した情報をインターネットに載せてるからだ。
なんでだよ。
どの本のどこに、どこまで詳細に載った設定か、それを客観的に書くのはそんな難しいか?!

もしかしたら、実はみんな伝聞でしか知らないものを、さも実在するかのように書いてるんじゃないだろうか…
そんな疑心暗鬼になりつつ、比較的初期の記述と思えるものを確認はできた。『機動戦士ガンダムMS大図鑑〈PART.6〉デラーズ紛争編 上』(1992年)。36ページ「デラーズ・フリートのMS」
>MS-09F/Trop ドム・トローペンは、MS-09R リック・ドムなどの改修設計機であるMS-09F ドム・フュンフの機体をもとに、MS-09 ドムの地上での実働データなどを踏まえて設計しなおした機体で、熱核ジェットのインテーク周りの構造などが抜本的に設計し直されており、配備された地域に、より適応した性能を獲得することに成功している。
上巻からこれだけ記述が見つかった。
外見、性能、生産時期などは不明。リック・ドムの強化版みたいだから、宇宙用か?

僕の手元の本で、文章設定を確認できたのはこれの他は総解説ガンダム辞典Ver.1.5だけだった。こっちは統合整備計画がどうのこうの書いてあるが、やはり外見を確定する情報はない。
他にどの本にフュンフの設定が載ったのかは知らない。
ちなみにデラーズ紛争編の下巻は持ってない。僕はガンダムに詳しい人でないので、そんなにたくさん資料を持っていない。

デラーズドム

話は変わるが『0083』冒頭に出てくる変なドムがいる。グワデンでガトーが乗ろうとしてデラーズに止められるやつ。
機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY(バンダイチャンネル 第1話無料
第1話の1分あたり。足までは見えないが、見えている部分はトローペンと同型だ。

以前、この機体には「試作型リック・ドム(エギーユ・デラーズ専用機)」の名がついたこともある。だから通称デラーズドム。…なんでデラーズ専用機?
あのおっさんがモビルスーツに乗るの?

ガンダムMS動画図鑑第177回 MS-09R-2 リック・ドムII(機動戦士ガンダム0083より)
なぜかこちらでは「リック・ドムII」として紹介しているが…

現在、「プロトタイプ・リック・ドムII」の名で確定したと考えられている。機動戦士ガンダム0083 新作ピクチャードラマ「宇宙の蜉蝣2」
こちらでは足首付近のデザインがトローペンから変わっていることが確認できる。「側部のホバー用部品が外れたトローペン」になっている。

このピクチャードラマ以前はこのデラーズドムが「ドム・フュンフ」だと考えられていたらしい。
どこで誰に?
さあ…?

ネット上でこの「デラーズドム」の設定画っぽいものが見つかるが(ドム・フュンフと称してたりもする)、ピクチャードラマのものと足カバーのデザインが違うようだ。コラ画像だと思うが、知らん。

結局、この「デラーズドム」がどういう意図で描かれたのかはわからない。フュンフのつもりだったのかもしれないが、何となくトローペンの設定画を流用しただけかもしれない。

なお「デラーズドム=フュンフ説」の根拠として、HGUCトローペンの説明書で「フュンフはグワデンに配備されてた」って記述がある、とWikipediaに書いてあるのだが、これもずいぶん古い記述で信用できない。というか、これ実際の説明書に書いてない予感がすごくする。
だからって実物を確認する元気が僕になかったことをご了承ください。
僕の調べられる範囲では、デラーズドムがフュンフだという説については「若き彗星の肖像」以外に証拠を見つけていない。

CDA若き彗星の肖像

この漫画の8巻でモロに「MS-09Fフュンフ」と呼ばれるものがデラーズドムの姿で登場している。足回りも現在の「プロトタイプ・リック・ドムII」と同じデザインだ。ちなみに見た目だけでフュンフと判断されてる。
(しかしこの機体、作中でもレアな機体だという評価をされているが、ストーリー的にこんなセリフを言わせたり、フュンフが出てくる必然性がまったくない。こういうのは「レアメカを出せばウケが取れる」的な思想が見えるだけであり大嫌いである。ポケモン集めてるわけじゃないんだから)

バインニヒツとグロウスバイル

Gジェネレーションギャザービートに登場した二種類のオリジナルメカ、MS-09F/Bn「ドム・バインニヒツ」とMS-09F/Gb「ドム・グロウスバイル」。
2機とも宇宙用だが、外見にトローペンとの共通点が多い。型番から考えてもこれはベースとなった「フュンフ」を意識したものなのだろう。
ただしこれらの設定中にフュンフについての記述はないようだ。GジェネFのグロウスバイルの設定見たらリック・ドムのバリエーション」と明記してあった。「陸戦用のドム・トローペンと同時期に開発されたため共用パーツも多く、外観的には似た印象を与える機体となっている」とはっきり書いてある。これだとFという型番は共通しているものの、前提のフュンフが存在していること自体には否定的とさえ読めるがどうか。
なおギャザービートは他のGジェネオリジナル以上にパラレル的側面が強いようで、このゲームのメカは本来の宇宙世紀作品に滅多に姿を見せず、これら変ドムも一部Gジェネでの出演に留まっている。

ネットで見つかるフュンフの画像

デラーズドムのコラっぽい画像とは別に、ドム・フュンフのものと称する白黒画像が出回っているのだが、出所は不明…
こちらは見た感じコラではなく、個人製作のものにも見えないのだが…
この画像の「フュンフ」もトローペンと似ているが、頭部も胴体も違う特徴を持っているようだ…デラーズドムではない。
これこそが正しいフュンフだとすれば、デラーズドムは最初からフュンフではなかったことになる。
だが何に載った画像だというのだ?というか、本当にフュンフか?

ジオニックフロント

08小隊独自デザインのドム
というのがあるのだが、これとほぼ同形状の色違いがジオニックフロントにドム・フュンフとして出てる。
いや、やったことないんだけど…

今は亡きジオニックフロント旧公式サイト 登場モビルスーツ ドム編
http://www.gundam.channel.or.jp/goods/videogame/zeonicfront/ms_z3.htmlのアーカイブ
アーカイブに残ってたのは発売約1ヵ月後のサイト。このゲームのフュンフ(緑色のやつ)が、ただの「MS-09 ドム」になっている。
なんかやらかしたっぽいな…
公式サイトが発売後に修正したのかは知らない。最初からこうだったのかもしれん。
結局カードビルダーとかガンダムウォーとかで、そのままこの「ジオフロフュンフ」がMS-09Fドム・フュンフであることは肯定されてきている。

Gジェネジェネシス

Gジェネフュンフ

これが最新の「ドム・フュンフ」だ。ジオフロ版に他の記述が混ざった感じ。
空間用フュンフの存在を半肯定しているものの、ゲームでは地上用。

総合的にドム・フュンフとは

現時点ではGジェネが最も信用できるメディアであるように見える。緑のドム=フュンフは確認。
だがその記述自体もあやふやな部分がある。
いやこれは単に「設定がちゃんとできてない機体」だと言ったほうがいい。
ドム・フュンフとは謎の機体ではあるが、存在が隠蔽されているとかではなく、掘り下げるほどちゃんと考えられてないとでも言おうか。

緑のやつをフュンフにしたのは、「トローペンのベース機」という情報をどこかで半端に聞いて考えたのか、謎の不遇機である08ドムを拾ってみたかったか、特に考えもないのか。
軽率だった気はするけど、けっきょくカードビルダーとかで緑のやつ=フュンフで確定していた。これがもう10年も前の話だ。

古い記述を考えるとデラーズドム=フュンフのほうがしっくりくるのは確かだ。けど公式はそうしてない。
それを肯定していたのはCDAだけだ。
CDAは公式漫画か?
CDA自体はDefineというパラレル続編につながることになり、外伝作品と言えない感じになってしまっているが、メカ的にもパラレル扱いなのか、そうでもないのか、よくわからん。
そんでGジェネジェネシスにはCDAも参戦してるわけだが。

僕としてはフュンフが何かを決めたいわけではないし、2種類以上あっても特に困るわけではない。緑ドムはフュンフで確定されたとして、デラーズドムと同じ姿のフュンフが共存していてもいいと考えるし、パラレルであってもいいよ。
そういうことをここで決めてしまう必要もない。2種類あるとしてその理由とか考える気もない。
…ただ、あーだこーだ議論するほど特別なメカとも思えない、というのも個人的にあり、あまり掘り下げても楽しい結果にならない気がする。
客観的に出てる情報を書いていけば十分なのに、なぜかフュンフの存在を広めようとする人たちがそれをしないで、俺設定を混ぜて語りたがるから勝手にわけわかんなくなってるだけなんじゃねえかと、そういう不快感はある。

ここまでが本記事の前提部分である。
長かった…

で、リック・ドム[シュトゥッツァー]

リック・ドム[シュトゥッツァー]はADVANCE OF Z ~ティターンズの旗のもとに~のムックVol.2に登場する機体だ。小説のストーリー上はジオン残党のガブリエル・ゾラの乗機として登場する。
ベースになっているのは「リック・ドム」である。
ストーリー上はこの1機しか登場しないのだが、シュトゥッツァーのデザインはひとつではない。最低でも3種類、もっとあるかもしれない。

その前に、シュトゥッツァーのベースになっている「リック・ドム」についてから。ADVANCE OF Z Vol.1にガブリエル・ゾラのリック・ドムが登場するのだが、「ゾラドム」に藤岡建機の設定画は存在しない。
模型作例はVol.1の106ページに掲載。製作:岡田雅之

ゾラドム

>MS-09R RICK-DOM
>ドム・トローペンをベースに、ゲルググ・マリーネのマシンガン、スパイク・シールド、バックパック、スカート内バーニアを使って作られたリック・ドム

である。作例解説はなし。
マリーネ成分を除くと、ほぼ現在のデラーズドムと同じ形をしている。だがフュンフという記述はない。
これは「リック・ドム」なのだ。

小説中の記述は以下の通り(ムックにも掲載されている箇所)
>ドムとゲルググ・Mの特徴がミックスされた機体だ。
とある。文章で細かいドムの品種までは指定されていない。
なおガブリエル・ゾラ本人の視点でも「リック・ドム」とされており、フュンフでもトローペンでもない。

シュトゥッツァー1(Vol.2 25ページ)

シュトゥッツァー1

設定画としてMS大全集に載ったりゲームに出たりしてるリック・ドム[シュトゥッツァー]はこれだ。一番メジャーな個体。
横向きの画稿しかないためわかりにくいが、外見上の特徴は元のゾラドムの作例同様、ドムトローペン、もしくはデラーズドムによく似ているが、脚部に違いがある。デラーズドムは脚部横のホバーユニットを外していたが、こちらは足首のデザインも違っている。
ところでこの25ページには他のドムのラフも描かれ、それぞれデザインが違う。

シュトゥッツァー右上

右上ラフ。ドワス型頭部と脚部だが、足首はドワスではない。いやドワスなんて知らん人のほうが多いだろうが…
ホバー部の解説はこのドワス型の説明というより、Vol.1のゾラドムの作例に対するダメ出しとも取れる。設定画もこの「ホバーなしトローペン」の形を採用しているようだ。いや、これたぶん実際ホバー装備としてデザインされてるんだけど、デラーズドムでは外されていないパーツで、これをホバーユニットだと言ってるのは藤岡建機だけのようにも見える。
で、ここに「ツヴァイ型の足は問題ないです」との記述。これは設定画には反映されていないが作例には反映された。

シュトゥッツァー左上

左上ラフ。右側が設定画の個体とよく似ているがミサイルがついてない。

シュトゥッツァー右

右ラフ。これは設定画バージョンかな。

シュトゥッツァー2(Vol.2 84ページ)

シュトゥッツァー2

製作:射水
これもトローペンをベースにした作例。設定画バージョンによく似ているが、足首はラフで解説されていたリック・ドムIIのものを採用している。
で、その解説である87ページに「F型」という記述が存在する。

シュトゥッツァー2足

当然フォトストーリーにも出てくる。

シュトゥッツァー2写真

足首がドムII系であることがストーリー写真からも確認できる。
追記:漫画版は2巻が設定画版で、3巻だとドムII型の足首になっている。

シュトゥッツァー3(Vol.2 94ページ)

シュトゥッツァー3

製作:山田孝
作例解説にもあるが25ページのドワス型のラフをベースにしており、カラー設定画とかなり相違点が多い。
ベースになっているのはHY2M 1/60 リック・ドム。ラフのドワス成分は残っておらず、どこを見ても普通にリック・ドムである。もちろんF型の面影はまったくない。
また、作例ページではガブリエル・ゾラの機体と明記されている。

わかりにくいが、こちらもフォトストーリーに出ている。

シュトゥッツァー3写真

ちなみにガンダムウォーのカードでもこっちのデザインのものがあるらしい。

[シュトゥッツァー]はガブリエル・ゾラの一派が独自に作成した機体のように描写されている。作中にもドムのシュトゥッツァーは一機しか登場しない。なのに姿が何種類もあるというのはどういうことなんだろう。他にも存在していたと解釈していいのか?
特にゾラのシュトゥッツァーは一度撃破されて放棄した「リック・ドム」をわざわざ回収してまで使っている機体だ。そこまで物資が不足してるのに、どこから2機目の、しかも歴戦のドムが出てくるというのだ?

そんなわけで、シュトゥッツァーや「ゾラドム」の外見を確定すること自体が僕にはできていない。
ただ、「F型」という記述は確かに存在した。「なんでかわからんが複数タイプあるシュトゥッツァーのひとつがF型である」までは示されていると言える。
だが、F型すなわちフュンフということではないことは説明するまでもない。単にトローペン似の意で「F型」と記述したのかもしれない。
よしんばこの作例がフュンフを意識したものだったとして、それはこのページ以外で有効なのか。
作例担当は意識していたかもしれない。だが、その射水宏さん一人の見解すら読者からは定かでない。

設定担当はどうなのだ?藤岡建機は?
上記の複数のドムのデザイン順がいまいちはっきりしないのだが、わざわざトローペン型を採用した理由として、フュンフ、もしくはデラーズドムを意識したものである可能性自体は高いだろう。
だが、藤岡建機はこれを「リックドム」だと言っている。ドワスとか自重せず出せる藤岡建機が、フュンフの名を出さない理由は何か?
それは、藤岡建機自身これをフュンフだと思ってないから、むしろ「トローペン型だろうとこれはリックドム」だという言い切りじゃないのか。
つまりデラーズドムを「リック・ドム」系の何かと位置付けている最新設定とだいたい同じところを向いてる。

AOZ中に「F型」という記述は確かに認められる。それをフュンフだと断言できないが、フュンフではないと言い切ることももちろんできない。
だが他の大半の記述で「リック・ドム」と断言してるのは無視していいのか?名前自体「リック・ドム」じゃないか。
僕自身この件はあやふやな部分が多いのだけど、その僕の立場でも確かに言い切れるのは「シュトゥッツァーがフュンフだという情報は正しく証明されていない」ということだ。
そして「そんな不確かな情報を肯定的に広める気にはならない」です。

※なお、Wikipediaにあった「フュンフ=シュトゥッツァー」の記述については、それ自体も別のウェブサイトから得た情報をもとにしている可能性が非常に高いことも個人的調べで確認しているのだが、その詳細をここで言うことはしないことにします。

※AOZのVol.6は持ってないのでもしそこにフュンフと書いてあったらこの記事も根底から覆りますが、そんなソースを持ち出した人がいないようなのでたぶん書いてないでしょう。やっぱり書いてなかったよ。