
モルボル。
『ファイナルファンタジー』シリーズに出てくるよくわかんないモンスターのひとつだ。
初登場はFF2。現在ではシリーズを代表するモンスターとして広く知られている。人気は結構ある。
モルボルって何なのか。だいたいのまとめは以下の通り。
- 河津秋敏の手による創作モンスターらしい。
- ビホルダーから着想したモンスターらしい。
- もとはイソギンチャクのモンスターだったらしい。
- イソギンチャクのことは公式側からも長いこと忘れられており、植物と解釈するものが最初期からあった。
- 名前の由来は未確認。
あまり知られてない情報もある。特にイソギンチャク設定は現時点でも定着はしてないと思います。
ひとつひとつ情報源を見ていこう。
ビホルダー由来らしい
元スクウェアで、ロマンシングサガ2を始め多くのサガシリーズに参加した小泉今日治さんが、旧twitter上でモルボルについて言及したことがありました。
モルボル、の考案と命名は河津秋敏師である。あるとき、誰かがその由来を師に聞いたという。師答えて曰く「だってモルボルって感じでしょ?」
— koizumi (@DextroII) 2010年10月9日
モルボル、ポジション的に、FF1のビホルダー(TSRオリジナル)に相当する凶悪なモンスターなんですが、権利関係からビホルダーを使いにくかったFF2で、河津さんが作り出したモンスターだと聞いています。ステータス異常が全部乗っかるインパクトはすごいですよねー。さすが師匠。
— koizumi (@DextroII) 2010年10月9日
この小泉証言で気付いたが、デザインのほうにビホルダーの名残があるようだ。
モルボルの特徴は大きく裂けた口と、無数の触手。そしてFF2のものは触手の先端に小さな目がある。
世間にかなりいるビホルダーの代替・類似モンスター、いずれもが一つ目・浮遊を特徴としているのだが、あえてそれらを抜いて、口と小さな目のほうを残したのがモルボルだ。一目瞭然。

ビホルダー類似モンスターと判定される最小要件は大きな一つ目と丸いボディだと考えられる。つまり、聖剣伝説のバイルダーやボルダーのようなモンスター(どちらも英語名はBeholderらしい)。
モルボルはビホルダーからボルダーの要素を取り除いたもの、すなわち一つ目のない「逆ボルダー」だったのだ。
モルボルも時代が進むと浮遊するものや、丸っこいもの、岩石質なゴツゴツしたもの、省略されがちな小さな目を逆に強調したアレンジも登場する。ビホルダーを意識した怪物であることは社内でもそこそこ知られていたのかも。
いっぽう、性能面ではビホルダーへの意識は…そこまで強くないとは思う(私はD&D方面に疎いので正確なことが言えない)
基本的にモルボルは魔法的な能力を持たない。使うのもいるかもしれんが、知らん。
知能に関しても不明。けっこう高そうな種類もいるのだが、どれも言葉が通じる様子がない。
出現数は単独のものも多いが、FF2をはじめ作品によっては群れを作る。ここがビホルダーと違うようだ。
状態異常を使うところは似てるかもしれないが、FF2の下位種の能力が麻痺と毒であることから、これはもう一つのモチーフであるイソギンチャク由来の能力にも思える。「くさいいき」はFF2では使わず、最上位種のモルボルグレートの通常攻撃に全ステータス異常が付与される設定だった。
イソギンチャク設定
ビホルダーからデザインされたと思われるモルボルだが、当初の設定ではイソギンチャクのモンスターである。このことは当時の制作資料に書かれていた。
「ファイナルファンタジー 25thメモリアル アルティマニア Vol.1」
2012年の文献。FF1から6の開発資料が多数掲載されている重要な文献。
78ページ、FF2の開発資料のモンスターリストに以下のように書かれている。
>モルボル:巨大なイソギンチャク。触手の妖しい動きによって獲物をおびき寄せて襲いかかる。陸に棲む仲間もいる。
実際のFF2でもモルボルは水棲系に分類されており、雷が弱点。陸地にしか出現しない水棲系モンスターはモルボルだけ。
この設定は長らく謎だったのだが、開発資料の通りイソギンチャクとして設定されていたようだ。基本種のモルボルは水場のあるミシディアの洞窟のみに出現し、まだ陸への適応が完全でないのだろう。(上位のランドモルボルとモルボルグレートは水棲系ではない)
しかし、デザインが先か設定が先か。
この開発資料の書かれた時期も不明だが、印刷日は1988年のApr 12とある。FF2開発の末期ではないようだが。
モンスターリストと実際のゲームの相違点は以下のような感じ:
- チェンジャー(ブレイン)が「ドッペルゲンガー」になっている。
- スタナー(ウェアラット)が「ラスター」になっている。鼠のようなモンスターで、髭に触れると金属が錆びてしまうんだと。
- ソルジャー系が「ハイガード」。
- キマイラが「キメラ」。
- テツキョジンが「てつのせんし」。
- ゴートスは帝国兵ではなく山羊の頭のモンスターと説明されてる。
- 「レオンハルト」がリストに入っている。
現在登場するモンスターは全て揃っているが、まだストーリーの細部が完成していない時期に書かれたことがわかる。あとは少々ネーミングが変わったくらい。
内容もゲームに出るものと大きな食い違いはないため、モンスターデザインができあがってから書かれている気はするが、不明。
FFシリーズで天野喜孝に対して、スクウェアからどのような発注がされたのかは、一部を除いてよくわかっていない。ドラクエのようにラフ絵を渡したという話はFFでは伝わっていないようだ。
でも、渡してるかもしれない。
発注過程は不明だが、「一つ目のないビホルダー」の原型が何らかの方法で天野喜孝に伝えられた、と見るのが自然だと思う。
謎なのはその部分ではなく、イソギンチャクという設定はデザイン前に伝えられていたものなのか、それとも天野さんの絵を見た後でイソギンチャクということにしたのかである。
これこそデザインを見てから後付けした可能性は否定できない。
イソギンチャクではなくなる
設定ができた経緯に疑問を残したが、このイソギンチャク設定が定着しなかったのは確かだ。
「ファイナルファンタジー モンスターマニュアル 天野喜孝イラスト集」
1989年発刊の、ちょっと珍しい文献。FF1と2のモンスターだけでなく、天野喜孝のイラストがひととおり掲載されており、全モンスターイラストに解説がついている。文は北枕獲。
83ページ
>MOLBOL モルボル
>彼らも植物系のモンスターだと思われるが、炎には強い耐性を示す。
断定形ではないのだが、既に植物…のようなもんだと認識されている。引っかかりは感じる書き方だ。
スクウェアから著者に情報提供はされなかったのだろうか?
本書は、このページの他にもスクウェアの開発資料に沿っていない記述がある。18ページにFF2がFF1と同一世界であるかのような記述があるのと、32ページの皇帝の説明。
>EMPEROR 皇帝
>前皇帝時代には、魔導士として皇帝の側に仕え、
以前の記事で書いたが、皇帝は元パラメキア王妃であるアイルの子であると開発資料に記述がある。つまり、皇帝は生まれつきの血筋で皇帝になった。
このあたりのゲームに出てこない開発資料の内容、十分に共有されていなかったと考えられる。
ミンウの英語表記が「MING=WU」になっており、筆者に何も提供されてないということもないようだが…
そういうわけで、モルボルがイソギンチャクであること、当時出た数少ない設定にも書かれていなかった。社内の資料に掲載されていただけで、一般ユーザーに対しては、2012年の25thアルティマニアまでに公表されたことはたぶん一度もなかったはずだ。モルボルが水棲系だったことも一部の人が知るのみで、その理由を特に気にされることもなかった。
FF4で再登場し、FF6以降はメインカラーも緑色になってきたが、ちゃんとした植物として扱われているかも疑問はあった。植物に分類されることは多く、「モルボルのつる」というアイテムも出てくるのだが、炎を弱点としないことも多い。
FFTではモルボル菌なるものを使うので菌類と思われ、植物ではなくマタンゴのようなものと解釈されたようだ。
河津秋敏自身が関わったFF12でも植物系なのだが、光合成はしないとの説明。
どうも植物として扱うのも抵抗があるような、なんか変なモンスターとして長年扱われてきた。
なぜイソギンチャクに見えないか
まずモルボルは海に生息しない。現実のイソギンチャクは基本は海産。汽水域や潮間帯にもいるらしいが、内陸部はもちろん淡水にもおらず、陸地に生息するモルボルからイソギンチャクをイメージするのは無理がある。
身体の構造もイソギンチャクっぽくない。ふつうイソギンチャクは床に固着し、移動するときは触手ではなく胴体で歩く。
たまに触手で泳ぐものもいるようだが、固着せずに歩きまわるものは…いないわけでもないようだが。転がって移動するダーリアイソギンチャクというのがいるそうです。モルボルのように触手で歩くイソギンチャク…いないとは言いきれないか。
しかし一般的なイメージじゃないだろう。
原画を見ても、根っこが足になってる植物に見えるというのが正直なところ。
無数に生えた触手も、これは意図してないかもしれないがモウセンゴケを思わせる。
そして大きく裂けた口に並ぶ多数の歯。これは見事にハエトリグサのイメージ。
というか、パックンフラワーだ。
「歯がついた肉食植物」のイメージの発祥は知らないが、スーパーマリオにもいるんだからモルボルより古いのは間違いない。
後発のパックンフラワーには葉っぱで歩くやついるし、ボスパックン(初登場2002年)に至っては、もう向こうからモルボルに寄せてきてるだろう。
モルボルのほうもFF12などの丸いものはパックンフラワーに近づいてきてる。
英語名はFF4の英語版の時点からMalboroとなっている。タバコのMarlboroを思わせ、これも植物と結びつかなくもないネーミングだが、小泉証言の通りFF2時点の河津氏のネーミング意図は不明である。
イソギンチャクに戻る
設定がFF2開発中の後付けかどうかはわからないが、モルボルがイソギンチャクとされたこと、公式側の扱いを見ても2012年まで忘れていたと考えられる。
だがこれ以降はモルボルが植物ではなかったことをどうやら思い出した。
LORD of VERMILION ARENAの公式Wiki(たぶんフレーバーは公式データ)にイソギンチャク説があると紹介されている。これが2015年のようだ。「単眼の魔物」という説もあるとな。
FF15では植物系をやめ、輪形動物(ワムシ)という設定を採用。本作ではゴブリンやトンベリのような非実在生物に由来するモンスターは全て「シガイ」と呼ばれる特異な魔物なのだが、モルボルはシガイではなく普通のモンスターで、実在動物にモチーフを定めている。
【コンセプトアート】
— STRANGER OF PARADISE FINAL FANTASY ORIGIN (@SOPFFO) 2022年3月20日
モルボル
水辺、湿地に生息する、イソギンチャクのような生き物。
他シリーズ作品にも登場する代表的なモンスターのひとつ。
「くさい息」をはじめとした状態異常を付与する攻撃が特徴的。#FFオリジン #SOP #SOPFFO pic.twitter.com/wx2S4eTWQF
FFオリジンではもっと明確にイソギンチャクに言及している。公式ガイドの105ページによると、海洋の魔物が地上に進出したものだという。ディレクターの井上大輔さんのコメントもあり、野村哲也さんから「イソギンチャクみたいなイメージ」と伝えられたそうです。
みたいな?
なんか確定しきってはいないらしい。
ビホルダー問題との関係
各メーカーで使われていたビホルダーの改名、削除、いわゆるビホルダー問題の登場はFF2の発売前くらい?らしいのだが、この件は情報が飛び交ってて、よくわからん。
モルボルについては、デザイン時期を考えると鈴木土下座ェ門の誕生よりは前と思うのだが、D&Dモンスターの回避の動きが業界内でどのくらい進行していたかは私にはわかんない…
権利問題を警戒していたかは不明だが、FF1でAD&Dのモンスターを使いまくったあと、FF2ではオリジナリティを出そうとしていたと考えられる。まったくの創作モンスターと思われるものもかなりいる。
だがビホルダー→モルボルの他にも、ディスプレイサービーストをさらに元ネタのクァールにしてるというのもある。無から創造したオリジナルばかりでもない。
その次のFF3では新紀元社の本を参考にしていたらしい。→参考:FF3モンスターの元ネタを解説。
FFを離れると、スクウェアはTRPG由来モンスターの使用を止めたわけではない。聖剣伝説にも新規に追加されたD&D由来のモンスターがちらほらいる(マイコニド、ダークストーカー、メガゾーン)
アックスビークは原型からだいぶアレンジされているが、聖剣伝説2→サガフロンティア→聖剣伝説LOM→FF9とシリーズを渡り歩いてFFに移入されてきた。原型がだいぶチョコボっぽい生物なので意識されたのかな?
鈴木土下座ェ門以降、むしろ各社でビホルダー代替モンスターがはびこった印象なのだが、モルボルと同路線のものはたぶんおらず、代替モンスターの枠を越えて最も成功した部類の創作モンスターではないかと思う。