神殿岸2

2と言っても実質1.5みたいなもの

復活のFで起きたデフレの話

ドラゴンボール ファイターズ_20180325205831

ドラゴンボール超が終わった。結果から先に言うと最終話のフリーザと悟空のやりとりで全て許せる。
復活のFからの流れの全てが、不満すら含めてここまでの伏線であったと言おう。
フリーザが生き返ってからまた死ぬ展開は無駄ではなかった。

「復活のF」以降、フリーザというキャラクターの扱いはいろいろ変化したが、そのひとつが戦闘力だった。
今さらジレンの戦闘力はいくらなのかとか気にしてもしょうがないのだが、力の大会においてもフリーザは十分以上に戦力として活躍した。17号もだ。こいつらは超サイヤ人ブルーの悟空以上の戦力を発揮し、最終話では謎のコンビを結成した。
…意外と超サイヤ人ブルーって、努力で追いつけるレベルとイメージされているのか?

フリーザの戦闘力として、よく言われる億とかのインフレは原作に出てきたものではない。原作ではフリーザ第二形態の「100万以上」を最後に、それより上の戦闘力が出てきたことはない。
そして鳥山明超サイヤ人を10倍くらいのイメージだという(2009年の発言)。
フリーザの戦闘力が億まで行くのは、界王拳なしの悟空がフリーザ第三形態より強いベジータ以上で、かつ悟空の20倍界王拳フリーザの半分に満たないという想定から、ライターが逆算して決めた数値だと思われる。だから最終形態が文字通り桁違いとなってしまっているが、マンガの描写を見る限りいくらなんでも第二形態から100倍以上というのは数値が大きくなりすぎだ。
それに最終形態といえどピッコロやクリリンで一瞬足止めすることはできたのだ。数値上100倍の差があったとして、それは攻撃が全く効かないことを意味するものではない。これは原作に出ない数値が意味もなくインフレしているだけである。

だがインフレが起きていないかというとそんなことはもちろんない。

原作のフリーザは弱い
いや弱くないよ?!
悟空と戦ったフリーザ様はメチャクチャ強かった。20倍界王拳でも大したダメージが通らず、特大の元気玉でも倒せない。そして超サイヤ人による大逆転劇が待っているわけだが、読み返してみるとその後もフリーザ様は結構粘ってて楽勝とまではいかないことに驚くんですよ。
なんで驚くかというと、その後トランクスに瞬殺されることを知ってるからなんですが。そのトランクスは超サイヤ人になったベジータ以下。ベジータは18号に勝てず、それより強い神コロ17号セル超ベジータPセル。
そのセルより強そうなダーブラが大した脅威ともみなされないのがブウ編だ。
界王神様はフリーザくらい一撃で倒せるとおっしゃる。それ第1形態の話だろと心無い言葉をかける読者も多いですが、そうではないんですよ。フリーザくらい最初期のトランクスでもほとんど一撃で倒したようなもんだし、ブウ編当時に残存してたメンバーなら18号さんでもたぶんできるでしょ。
界王神様もあの悟飯の動きを封じるくらいはできたんです。18号さんより強いかもしれません。だから界王神様はフリーザ(最終形態)を一撃で倒せてもおかしくないです。あの何の役にも立ってなかった界王神でも一撃で倒せるフリーザは弱い。証明終了。
大全集の戦闘力の信憑性はともかく、インフレは明らかに起きており、フリーザ程度はもうインフレについていけてないというイメージは原作内にも明確にあった。
アニメもそれには忠実で、オリジナルを入れてもフリーザが急激に強くなるようなことはなかった。たまに出てくる死後のフリーザ様は全く恐ろしい相手ではなく、復活のフュージョンでもあの世から出てくるがグレートサイヤマンに一撃で倒された。
そしてGTでセルと共に戦ったのを最後に、しばらくストーリー上にフリーザが出てくることはなくなる。

さて復活のFでフリーザは超パワーアップするわけだが、その前に原作者のフリーザの評価がわかるものが少しある。

ネコマジンZ」(2001年~2005年掲載)
ギャグマンガなのであまり真面目に考えるものでもないのだが、ドラゴンボールの本来の歴史と関係ある作品でもある。
ネコマジンZの最初の敵が超サイヤ人のオニオ。そして敗れたオニオが連れてきた助っ人がクリーザだ。ここでフリーザ的なものが超サイヤ人より強いっぽく扱われる。
そしてその次にクリーザの父親であるフリーザの命令で、ベジータそのものが地球に襲来する。しかも人造人間編の戦闘服である。これはどういう状況なのか。どうも何らかの理由……つまりナメック星で両津と遭遇したなど……によりフリーザのナメック星での行動が変化し、フリーザは生き残り、息子のクリーザが生まれ、ベジータ超サイヤ人になったのにまだフリーザの部下をやっている歴史であるらしい。
サイヤ人のオニオがいる時点でナメック星よりもっと前に分岐があると思われるが、部分的に正史に基づいて分岐しているイメージのようだ。ギャグマンガなのに。
ここでは超サイヤ人より強いクリーザより強いベジータよりもフリーザのほうが強いようである。フリーザ一族は強いのである。状況によっては超サイヤ人より強くなるというイメージは、復活のFよりずっと前にあったことがわかる。
ところでこの漫画、原作最終話直後くらいの状況で、やぼったい髪型の悟天(近年のゲームにも出てこない超レアデザイン)や道着を着てるウーブが出てくるけど、なんでベジータさんは人造人間編の戦闘服なのか。フリーザ軍にいるからフリーザ編の戦闘服ならわかるが、人造人間編の服はブルマが作ったやつだ。この人はどういう歴史を辿ってきたんだ?
この時期以降ベジータさんの服はこの戦闘服に固定されるようになり、作者的にも本人的にもこれがしっくりきたってことなんだろうか。

ドラゴンボール オッス!帰ってきた孫悟空と仲間たち!!」(2008年)
フリーザくらいの強さらしいアボとカドが出てきて今更フリーザとか出てきてもなあと困惑される話であった。
この作品は原案は鳥山先生らしいんだけど実際には脚本を書いた小山高生先生のカラーが強いように見える。フリーザの話題まで原案にあったかは、よくわからん。このときのフリーザはまだ弱いと考えられていた。

ドラゴンボールZ 神と神」(2013年)
変身前の悟空を見た破壊神ビルスは、フリーザを倒せるように感じられなかったようだ。これもビルス様のおおざっぱな見立てであり正確な評価ではないが、読者的には悟空は変身しなくても十分強いイメージがあったはずである。界王神様がビビるヤコンと黒髪で戦ってたし、今までのアニメではフリーザ級の相手は変身せずに戦ってきた。
ビルス様が知ってるのは界王神に一撃で倒される程度のフリーザではなかったのだろうか?やはりあれは第一形態の話で、やっぱりヤコンやプイプイはフリーザよりは弱いのか?
それともビルス様が寝ている間のフリーザのパワーアップも想定しての発言であるか?
一部疑問は残るが、どうも作者のイメージするフリーザが、この2013年の時点ではそれほど置いていかれていないことがわかる。フリーザの作者評価は連載当時より強化されていると見て良いのではないだろうか。
ちなみにこの頃はまだセルフリ地獄コンビは残存しており、宣伝でセルと漫才してる。

さて復活のFではフリーザは大幅にパワーアップするが、悟飯たちはザーボンドドリアくらいの強さのシサミに手間取っている。これは相手を殺さないように手加減しているからだが、それにしてもちょっと苦戦しすぎじゃね。こんなレベルのものは不殺ハンデつきでも一瞬で戦闘不能にしてもらいたいのだが。ピッコロは初期の超サイヤ人より強いんだぞ。
あと亀仙人は果たしてザーボンドドリアくらいの強さになってるんだろうか。ジャコもサイヤ人より弱いレベルのはずだが割と活躍してる。ザコ兵士の質が落ちまくってラディッツよりずっと下のレベルになっているんだろうか。
そしてパワーアップしたフリーザの戦闘力は自己予想130万…

「超エキサイティングガイド ストーリー編」(2009年)によると鳥山先生は超サイヤ人の戦闘力が50倍という設定を知っている。しかしその設定は自分のイメージではないことも述べている。
一見すると、そういう他人発の設定は知ったことじゃないというスタンスのようにも見えるが、この発言の本当のところはもう一歩進んだもの、無視ではなく、明確にこの50倍設定を否定したい意図があるのではないだろうか。数値ばかりインフレして描写が伴わない状態は望ましくないから。
さっき書いたとおり、原作でも数値抜きでのインフレは十分起きているのだが、それでも作者のイメージでは言うほどインフレは起きてなかったという見方はできる。
そして復活のFでやったのは意識的なデフレであるかもしれない。ザーボンさんレベルでもまだギリギリ戦列にいられるくらいまで戻ってきたのではないかということである。
地球人上位のクリリンなどでもまだザーボンくらいの強さしかないかもしれないのだ。

もうひとつが、やっぱりパワーバランスが変わったのではないかというのが、ヤムチャより上位扱いされてる亀仙人だが、もう一人はピッコロの弱体化だ。
原作通りならピッコロさん(神コロ様)は初期の超サイヤ人より強いからね。でも復活のFでは弱体化した悟飯以下。
一方で、ザコ兵士はラディッツと同じくらいのイメージだったが、大人のサイヤ人に勝てないはずのジャコはそいつらをいなしている。これはザコが弱くなったというより、むしろこれはサイヤ人の評価が知らないうちに上がってるような…?

この復活のF仕様の新序列はテレビ版『ドラゴンボール超』でリメイクされて幾つか見直された点もある。
まずデフレ、バランス変更を考慮しても説明のつかない、むしろ言わないほうがいいと思われた130万という数字は言わなくなった。
しかし大きく違うのはタゴマが生き残ったところからのシナリオ変化で、フリーザと共に鍛えられたタゴマの戦闘力はかつての特戦隊以上。
…弱くね?と思うがそれでノーマル悟飯やピッコロを圧倒してみせる。タゴマはギニューと交代してさらにパワーアップするも超サイヤ人の悟飯には及ばなかった。
過去の評価を考えるとタゴマは旧フリーザよりだいぶ強くないと辻褄が合わないのだが…デフレに伴う戦力評価の見直しによりピッコロの位置が下がったとみるべきだろうか。設定が変わったと。
とにかくギニューレベルはまだまだ現役で戦える。亀仙人も戦える。このあたりのイメージは映画から受け継いだものと考えられる。
そしてギニューより強い旧フリーザの評価もついでに上がっていると考えてよさそうだ。

ドラゴンボールの歴史はゲームの歴史でもある。ゲームでもインフレの影響は無視できないレベルで起きており、RPGシリーズなら超サイヤ伝説までは戦闘力の再現を頑張っていたが、既にフリーザが出るあたりで悟空ベジータピッコロ以外は厳しくなっていき最後は超サイヤ人にするためのイベントアイテム扱いだ。
そして初期シリーズ最終作であるサイヤ人絶滅計画では地球人はアイテムで召喚するサブキャラ扱いであった。
超武闘伝シリーズなどSFCの格ゲーでは何と普通の地球人が操作キャラに一人もいない。4作もあるのにだ!
だがフリーザはいた。インフレに置いていかれたフリーザは、ブウ編に至ってもまだ操作キャラであった。超サイヤ人の悟空の最初の敵としてちょうど良いからであろうか。ゲーム上フリーザが強キャラかは別として、地球人とは違いセルやブウと同じ土俵には立てていた。
かくしてフリーザはレギュラーの座を維持していたが、SFC以外ではかろうじてクリリン天津飯が参戦していたこともあった。そしてPS2時代以降はヤムチャミスターサタンもレギュラーで参戦するようになり、キャラクターがどんどん増えるようになる。
最後のほうはZ戦士どころかフリーザ軍兵士とかブルー将軍とかわけわからんやつも出るようになった。同じ土俵に立てさえすれば、フリーザ軍兵士でもブロリーと戦うことはできる。できなければゲームにならないからだが、こういうゲーム類でもフリーザが飛びぬけて弱いということはなかった。ラディッツや桃白白が現役のゲーム世界ではフリーザ様は十分強キャラなのだ。
こういったゲームでの活躍が、フリーザたち下位キャラにもまだ可能性があるという意識につながったと見ることもできる。

ゲーム最新作「ドラゴンボールファイターズ」(2018年)は、サイヤ人絶滅計画みたいなノリで地球上の強い戦士は戦闘力を引き下げられているという設定である。その影響を受けないギリギリの戦士がヤムチャさんであった。つまりこのゲームはヤムチャ基準の世界であり、ストーリーではセルもフリーザヤムチャなみに落とされているのだが、本来の実力は違う。言い方からするとナッパ、ギニューでもヤムチャより強い雰囲気である。そして死んでてインフレに置いて行かれてるはずのセルは十分追いついてて、フリーザと比肩する実力者として扱われる。
このへんの格付け、非常にぼんやりしていて定義しにくいのだが、おおざっぱな印象をまとめると、

・過去のフリーザより強いものを上位キャラとみなす。
・上位キャラ同士の実力差が埋まった。(過去フリーザ、セル、現フリーザの実力差は埋められないほど大きくはない)
・下位キャラでも上位キャラに対し無力ではない。
・ピッコロは下位キャラに落ちたくさい。
・ナッパも下位キャラだがまだヤムチャより強い。

これが「ドラゴンボールファイターズ」から感じ取れた印象だが、ゲームの都合だけではない。本作がアニメ版ドラゴンボール超を前提としたストーリーなので、このくらいのバランスは妥当な解釈であると思える。
いやピッコロが下位に落ちたのは納得いかないが実際ブウ編じゃ戦力外だったからなあ…あの時期に神コロのパワーは失ってしまったんだろうか

デフレを起こした価値

復活のFで起きたデフレにより、上位キャラの実力差は前ほど大きくなくなって、フリーザがトレーニングで追いつけるようになった。
そして亀仙人が現役復帰できるようになった。これにより意外なキャラクターの参戦が可能になり、ストーリーにもバリエーションが増やせたと言える。
しかし、過去の原作を尊重し、亀仙人もインフレに置いて行かれたままのほうが良かったという意見ももっともである。個人的な意見を言わせてもらえば亀じいを現役復帰させる前にヤムチャさんも活躍させてあげてほしいんです…
でもまあ、力の大会での彼らの活躍を見ると、どっちかというと良かったというふうには思う。

疑問は、これが意図して起こされたものだったのだろうか?ということだ。
鳥山先生は重大な設定を平気で忘れたりして適当な印象があるが、妙にしっかり覚えてるものもあったりする。
超サイヤ人の戦闘力50倍は自分の考えた設定じゃないのに珍しく記憶していたものであり、しかも記憶していた上で否定している。その否定の一環として130万を言わせた感じはするんですけど、シサミでザーボンドドリア級というのも、そのインフレ否定の一つなのかというところだ。
そこには、ライターの考えた数値の問題だけでなく、過去の自作品でインフレをやりすぎた自覚があって、自作品の否定も含んでいるのかもしれない。
もしかしたら、適当でやっているように見せかけてその実は意識的にパワーバランスの変更を想定したのが復活のFであり、現在のドラゴンボール超の独特のパワーバランスであり、17号の上位加入なのかなというふうにも思えたのだった。

で、この記事はいろいろ確認するために書いたが、本題はこの次に書く記事になるのです。
次回、ラディッツ上級戦士問題に続く。