神殿岸2

2と言っても実質1.5みたいなもの

∀ガンダムとGレコの時系列と真意

ガンダム Gのレコンギスタ」は「∀ガンダム」の500年程度未来を想定した物語である。

放送終了から半年近く経った2015年8月27日、生配信されたトークショー「夜のGレコ研究会 ~富野由悠季編~」(跡地 http://live.b-ch.com/g-reco)で富野監督によって不意に明かされた事実だ。
これは大変な混乱を生じた。同席した小形プロデューサーを筆頭に関係者の誰もこの事実を知らなかったし、リギルド・センチュリー∀ガンダムの時代「正暦」より前と放送前から設定にも明記してあったからだ。
それから2年が経過した。表向きは何も起きていない。何も。

4年後の追記 本記事の内容は2017年当時に得られた情報のみから書かれたものである。
その後に公開された映画はもちろん、2019年より各地で開かれた美術展富野由悠季の世界』や、2021年に発表された富野の著書『アニメを作ることを舐めてはいけない -「G-レコ」で考えた事-』で明かされた数多くの重要な情報は反映されていない。
本記事はトークショーの内容など事実関係についてはできるだけ正確を期しているつもりであるが、その後の新情報がすっぽ抜けており、的の外れた想像による補完も多く含むものとなっていることをご理解いただきたい。
そして、そんな記事にどうこう言う前に、ご自分で最新の情報を手に入れることを考えていただきたい。

追記終わり。

・ターンエーは最後のガンダムである

はずだった。それは「∀ガンダム」という作品内だけで留まる話ではなく、以降に作られるすべてのガンダムに対して強制力を持つ設定であった。00もAGEも全て黒歴史に含む。
プラモの説明書にもそう書いてある。
MGターンXの説明書

当然「Gレコ」もそうだと思われており、メカデザイナーを含む何人かの関係者もそれを意識して制作していたことは幾つかのインタビューでも明らかになっている。
Gレコの設定でも、リギルド・センチュリーは「∀ガンダム』で描かれた"正暦(Correct Century=C.C.)"よりも前の時代に位置する。」と最初から書いてある(先行上映のパンフレットの記述)。このような明記は異例なことである。00やAGEは黒歴史に含まれると作品の外側で言われつつ、わざわざ作品内の設定で宣言などしていない。設定で正暦より前だと宣言しているリギルドは、∀に明確につながる物語だという意識が他のガンダムより強かったように見えた。…番組の外では。
※SEEDは黒歴史関係の話題が設定上にもあったかもしれない 

・設定は変わっていない

富野監督自身がよく自覚しているようなのだが、トミノの発言に公式設定としての効力はない。Gレコは∀より後だと富野が言おうと、それが関係者の承認を経て公式設定とならなければ効力がないのだ。
で、研究会から2年が過ぎた2017年現在の状況を確認しておくが、どうも2年経っても設定が変わった様子がないのである。
そりゃGレコの設定がいまさら更新されるタイミングがないから、そうなるでしょ。

発売が延期されて研究会の翌月に出た「ガンダム Gのレコンギスタ オフィシャルガイドブック」が最後のチャンスだった気がするのだが、この本の用語集でもリギルド・センチュリーの項で「なお『∀ガンダム』の作品世界「正暦」は、さらに先の時代である。」って書いてある。延期しても反映するヒマはなかったか。
また各種文献にはこの設定が書いてあるが、公式サイトの用語集には正暦との関係が書いてなかったので、特に更新されることもなかった。
これが公式サイトにも書いてあったなら、逆に後からでも更新しなおすこともできただろう。

・発言自体も消え去っている

研究会の映像はスマホアプリ「ガンダムチャンネル」で再配信され、問題の部分も編集されていなかったので、公式的にはセーフな発言だったのだと思う。
しかしガンダムチャンネルはガンダムファンクラブに移行し消滅、研究会の動画もどのタイミングで消えたのか知らないが、今は残ってないようである。gundam.info等での公式レポートもなし。ガンダムエースとかにもたぶん書き出されてない。
富野の発言は公式には残っておらず、見ていた人間の非公式な伝承の中だけに残されている。

これが2017年現在の状況だ。
いや劇場版Gレコが正式発表されれば何らかの設定化はあるかもしれないが、劇場版がないんだからしょうがないじゃない…
公式サイドこそ発表のタイミングをじっと待ってる可能性はあるものの、2017年9月時点では相変わらず「Gレコは∀ガンダムより前」というのが公式設定のままである。客観的にそう考えるしかない状況にある。

ここからは長い話になる。

・公式設定だからどうということはない

公式な設定でGレコのほうが前になってるのは揺るぎない事実だが、アニメ制作というスタッフワークの中で、原作者と監督と脚本家と絵コンテの全員がその設定を知らずに、全く逆に考えて作っていたのであれば、設定がどうであれ関係は無いだろう。作者たちに認知されていない公式設定など何ら効力を持たない。
この全員が同一人物なんだから無敵じゃないですか。

僕のような受け手は、作者がそう言ってるんだからGレコはターンエーより後だと思考停止してしまってもいいのではないかと思うのだが、それでは話が終わってしまうので、ここからは客観だけでなく主観も交えていろいろ考えてみたい。

黒歴史ルール

宇宙世紀のすぐ次の時代であるらしい「リギルド・センチュリー」にあるのは、今の衰えた文明が滅びないように、発展させずに維持するという思想だ。
そのキャピタルタワーを維持していった世界が、いつか滅びて月光蝶により埋葬されるというのがどうも意識されてる感じはしなかった。
メカデザイナーはターンエー以前のガンダムのつもりでデザインしているとtwitterでもインタビューでも公言していたが、富野監督自身はGレコ関係のインタビューで∀ガンダムとの関係を語らない。まるで独立した作品のような印象もあった。Gレコも単なるアナザー系だからそれでいいだろうというだけなのかもしれなかったが…
この違和感を簡単に解消する説明が放送半年後のGレコ研究会の発言で、富野監督はGレコとターンエーの関係はちゃんと考えていた。ただ順序が逆だったのだ。
そして「ターンエーが最後」というルールは、富野監督の中ではなくなっていた。やっぱり…

いや、ここで問いたいが、本当にそんなルールはあったのか?

「今後作られるガンダムは全て∀ガンダムより前の話であり、黒歴史に含まれる」。
これは富野自身の中では、最初から絶対的なルールではなかったんじゃないか。
もちろん、かなり強制力のある仕組みのつもりではあっただろう。だからこれからのガンダムは組み込まれていくのだと、放送前から強気でこの発言を繰り返してみせていた。
コズミックイラだろうとアドバンスジェネレーションだろうと、後から全部黒歴史だと言い張ることができるのだ。
だがこれは「富野個人が勝手に作ったルールに、後の作り手や受け手が従わざるを得ない仕組みができた」という構図だったはずである。「∀ガンダム」はそういう性質を持つ、ある意味卑怯な作品だった。これはルールじゃなく性質だ。
これはもしかして最初から富野の勝手ルールであり、強制力のあるルールとして考えられていたのかどうか。14年も経ってるのだ。富野自身がそれを自分の都合で破るのは何もおかしい話ではない。
そしてもうひとつ、富野の発言に公式設定としての効力はない。それはGレコがターンエーの後という発言がそうなんだけど、よく考えてみりゃ全部のガンダム黒歴史に含まれるという根源の部分から富野の発言だったじゃねえか。
十数年前に自らが勝手に作り出した仕組みが、公式的に厳密にルール化されていって、ついにプラモの説明書にまで明記されていたことを富野自身が知っていたかどうか。
Gレコの企画でガンダム00を意識していたらしい富野は、それを見て西暦と黒歴史について何か思わなかったか。

これは富野ファンの人に聞きたいのだけど、富野由悠季本人が最後に黒歴史ルールに言及したのはいつだ?
2002年、「戦争と平和」で同じ趣旨の発言があることを僕も確認している。けど、その後の十年くらいの間に「今後のガンダムは全部黒歴史に含まれる」を富野が言い続けていたかどうか。ちょっと教えていただきたい。

もっとも、仮にルールが富野の中で生きてたとしても、このシステムには幾つか抜け道がある。そのひとつが∀ガンダム自体の続編には無力であるということだ。
屁理屈みたいな話だが、たとえば∀ガンダムの10年後の続編が作られたら、それは黒歴史に含むはずがないのだ。
それは正暦という概念の消え去った500年後の続編でも同じことである。
ルールが生きていようがいまいが、Gレコはシステムの穴をついた作品であり関係はなかったのだ。

Gレコは作ってる最中にも富野の中で設定が変わっていった形跡はあるのだが(放送前は金星まで行くって言ってたのにビーナス・グロゥブは実は金星じゃないようなことを放送後に言ってる)、このGレコが∀より後というのは放送途中で変わった話ではなく、遅くともアニメが始まった段階では明確にイメージされてたはずである。
月光蝶について質問された富野が、困惑しながらもすぐさまクレッセントシップを例に出して説明できたのも、急に思いついた話じゃなく、しっかりつながりを考えていたからこそだ。
Gレコ作中にターンエーにつながる描写が全くないのも、順序が逆なんだから当たり前だった。

・Gレコが後と断定した場合

Gレコを「∀の続編」と考えることは、Gレコを見る上でも重要な意味がある。
ひとつはGレコのアメリアは、∀のアメリアと同じだろうと考えられることだ。宇宙世紀の記憶を失い、諸侯によって統治され、複葉機とか作ってたアメリア大陸。それが500年後には大統領制のひとつの大国となり、宇宙艦隊を建造し大陸間戦争するまでに発展する(グエンが大統領になるという話は「∀ガンダム」にもあるので、大統領という概念はあったようである)。
500年という数字はこの変化にちょうどいい期間のように思える。イングレッサやルジャーナは統合されても、アメリアという名前が消えるほどの時間も経過していない。これには100年では短すぎるし、1000年では長すぎる。
500年はイメージに過ぎないものの、アメリアの変化を基準に考えると比較的妥当なイメージに思う。
そして宇宙世紀の記憶を取り戻して500年ほどしか経過していないアメリアという国は、宇宙世紀から歴史が続くキャピタルに比べて歴史のない国だったことになる。
歴史のないアメリアという国は、あらゆる歴史的なものを手に入れたいのだ。それがキャピタル・タワーという古代遺跡であり、アメリアの戦争の動機はブレンパワード17話で語られていた!

もうひとつはメカデザイナーも言及していたが、G-セルフがターンエーより強い可能性が高くなったことである。
これは極めて重要である。
Gレコの物語は「神にも悪魔にもなれる無敵のスーパーロボットが人類の手に渡ればこうもなろう」であるため、Gセルフも他のマシーンも強ければ強いほどストーリーへの影響も大きい。

リギルド・センチュリー1014年時点で、G-セルフを除けば、ジット・ラボ製のMSが最強ランクだと思われる。何しろこいつら普通に空飛ぶしバリア出すしオーバースキルみたいの持ってるし大気圏突入できる。
そのうちの一機「G-ルシファー」が月光蝶を使う(コンテに月光蝶と明記してたらしいのだが、アニメに登場した時点では設定に存在しない技だった)。宇宙世紀を終了させた禁忌の最終兵器が再建造できる程度のレベルまで来ているようだ。
ジット・ラボも宇宙世紀のコピーをしているだけとも言われるが、宇宙世紀末のターンエーと、宇宙世紀の技術を取り戻しつつ発展させてきた金星の最新兵器のどちらが強いか。ナノスキンの再現やワープまではできないかもしれないが、月光蝶を使うやつが現れたということは、大量破壊力だけならターンタイプに追いついてきている。 

そしてG-セルフはそれら最新機を大幅にぶっちぎった最強のスーパーロボットだ。その異常さは、あまりの強さにパイロットが遠慮して性能を発揮しきれないという形で描写された。
ターンエーの月光蝶は使ってはならない禁断兵器であり、ライバルの出現に抑えきれず発現するという描写がされていたが、対するGセルフ最強技と思われる「フォトン・トルピード」は量産型相手に試しに使ってみた結果あまりの威力にドン引きして二度と使わないという表現で禁忌であることを見せつけた。本気出せば最終話の戦場を一機で何とかできていたことは、あえて言われるまでもなく視聴者には理解できる話だった。
こいつは宇宙怪獣とでも戦うつもりなのか?いや第6文明人か?
Gセルフはエネルギー効率に少々の問題がある(補給なしで無駄に大気圏突入を挟みながらカバカーリーなどの強敵相手に手加減しつつ立て続けに戦えばパワー切れする程度の持続力しかない)など弱点もあり、ターンエーの水準に及ばない要素も複数見つかるものの、全体的に本作のモビルスーツは従来の富野ガンダムより遠慮がない、自重していない。
ターンエーより未来の機体だということを踏まえて考えると、ターンエーに負ける気が全くしなくなるのがG-セルフ パーフェクトパックだ。5世紀ぶんの技術格差は大きい。

ところでGレコが後だとすると、「∀ガンダム」側の解釈にも影響がある。その一つが性能の話で、ぶっちゃけると、これまで語られてきた∀ガンダムの性能は盛られている。これを認めるべきかもしれない…
Gセルフの強設定の多くは、デザイナーの安田朗が考えたようだ。フォトントルピードなんかも監督の要望でデザイナー自身が考えた武器で、それらは監督が必要に応じて採用していって結果的にほとんどそのまま出てきたという順番だが、安田朗自身はGレコが∀ガンダムより前の作品だと思っていたため、この機体を本気出した∀ガンダムとは全然勝負にならないくらい弱く想定していた。
その状態で研究会を見ていた安田朗Gセルフのほうが強いのかもと揺らいで、その意見は今も揺らいでるらしいのだが、気になるのは安田朗が語っていた想定∀ガンダムが強すぎたことだ。
これは別にあきまんの責任ではなく、当時の他の関係者の発言(最近のものも含む)、そして古い書籍に書いてあるらしい情報やらで、番組で描写された範囲を大幅に超えた宇宙規模の強さのターンエー像が語られてきている。それは知ってるのだが、これ富野ほとんど噛んでないんじゃねという気がしてきている。
最後まで遠慮していたGセルフと同じように、ターンエーもターンXとの最終決戦でまだ少し遠慮しているところはあったが、そこまで力を隠しているわけでもない、番組で見せた以上の強さはないんじゃなかろうか。
黒歴史の最後の機体だとすれば、最低でもデビルガンダム(デビルコロニー)より強くなきゃいけない気がするので、設定関係者は性能を盛りまくっただろうが、監督は果たしてそんなに強いつもりで描写してたか。
強さだけじゃなく、「∀ガンダム」のアニメ外で語られた正暦にまつわる諸設定は、「Gレコ」と同様に、富野の意図するものと違う疑惑だって出てくる…
いや設定に対する監督と制作サイドの意識のズレはVガンの頃から既にあった気がするし(ミノフスキーフライトの記事参照)、ひょっとしてファーストから今までずっとそうなんじゃね…

以上のような説明を持って、Gレコが∀の未来であると納得してしまえればいいのだが、それができない事情もある。

しっかりつながりを考えていた、と書いたが、うん、「しっかり」は考えられていない可能性も高い。
主に年代関係で、幾つか具体的に抵触しそうな事項がある。それについても考えてみたい。 

・500年前であるかどうか

「500年」という曖昧な期間については、今回はほとんど正確なものと考えることにする。先に述べたようにアメリアの発展する期間として500年というのは説得力があるように思えたからだ。まあ400年でも600年でも大した違いは起きないと思うが、100年未満ということはなく、1000年以上ということもない。
そして500年というのは、つまり「∀ガンダム」の出来事は宇宙世紀が終わって、リギルド・センチュリーに入って以降の話だと監督には明確にイメージされているはずなんである。
これを信用し、∀ガンダムの舞台「正暦2345年」が、R.C.1014年の500年前、R.C.500年代と一致している、つまりふたつの暦が併存していたと考えると、さまざまな問題に突き当たる。

・「宇宙世紀」の定義

Gレコの前世紀は「宇宙世紀」である。R.C.は宇宙世紀の終焉とともに始まった年号だと思われる。
ただし、「∀ガンダム」の前の時代も「宇宙世紀」である。ここで明確にしておきたいのだが、冬の宮殿の映像でアフターコロニー(TVとEWの両方)とアフターウォーを含む映像を全て「宇宙世紀」と呼んでいる。
その最後にリリ嬢が「最初の宇宙世紀」は10000年前だと言っている。この「最初の」がたぶんファーストガンダムを含む本来の宇宙世紀のことと思われる。
「最初の」だけでなくアフターコロニー、アフターウォーまで含むのが、正暦時点での「宇宙世紀」。
∀ガンダム」の描写を前提とすれば、Gレコの語る宇宙世紀もかつて「黒歴史」と呼ばれていた過去の時代すべてであると考えて差し支えない。
黒歴史という言葉は500年の間に消え失せ、情報が公開されたそれは「宇宙世紀」と呼ばれるようになっていたのだ。ここまでは問題ないね。

…いや問題はあるんだ。
Gレコの前の宇宙世紀は明らかに「最初の宇宙世紀」だった。そのようにアニメで描写している。
そりゃ∀後だと監督以外誰も知らなかったんだから当たり前だ。宇宙世紀って指定されたら、絵を担当する人はジェムズカンとかリックディアスとか描くだろうし、ズゴックジャブローっぽい場所に残したりもする。
そうした描写を通すのも監督の仕事である。
監督以外が∀後だと知っていれば、宇宙世紀のメカの中にジンでもフラッグでも描いたかもしれないし、ギアナ高地にあるのはジャブローじゃなくてシャイニングガンダム。いくつもの時代を経て埋葬されたジャブローがあんなに綺麗に残ってたらおかしい。

とりあえず「宇宙世紀」の定義の揺らぎの範疇として何とかしておこう。ジャブローっぽい場所もオフィシャルガイドにジャブローって明記してあるけど、最初のジャブローと位置が動いてるみたいだし、本当に同じジャブローなのかどうかわかったもんではない。あれは宇宙世紀後の時代で作り直した第2ジャブローだということにすれば容易に言い逃れ可能だ。いや何だよ第2ジャブローって。そんなのがあったと考えるほうがよっぽど強引な解釈じゃないのか。
……とりあえず「黒歴史は全部宇宙世紀と呼ぶことになった」という仮定で、この問題を考えるのはやめにする。問題はあるとだけ申しておきましょう

R.C.1014年時点で、前世紀の「宇宙世紀」は約1000年前と認識されていると思われる。素直に考えるならリギルドの前。
それと月の裏側のコロニー「トワサンガ」は16話によると「宇宙世紀を含めた2000年を越える歴史がある」である。トワサンガはR.C.起源より古く、その始まりである2000年前はまだ「宇宙世紀」だったと認識されているようだ。
Gレコの1000年前が宇宙世紀末だとすると、それは∀ガンダムの約500年前、正暦1800年代ということになる。トワサンガのできた時期でさえ正暦800年代。
R.C.から見た「宇宙世紀」には「正暦」の大半も含まれるのだ。

∀ガンダム」は、宇宙世紀からどの程度経過したかはっきり示していないが、アメリアとムーンレィスが別れ、アメリアで文明が発達した期間は2000年程度であるらしい。ギンガナム艦隊の演習期間は2500年だと言ってた。そして正暦が2345年。
正暦のスタートがいつごろと定義されてるかは不明だが、2000年くらい前に何らかの変動があったのは確かなように見える。これが月光蝶で文明が埋められた時期と一致すればさらにわかりやすいが、どこかで明言してたかはごめん覚えてない。
だがターンエーの登場が後で見た宇宙世紀の最後、すなわち実は500年前の正暦1800年代だったと考えるのは無理はあるが不可能でもないか…。

もうひとつ、「最初の宇宙世紀」の時期もわかっている。
テレビ版44話でリリ様が語るところによると最初の宇宙世紀は1万年前だ。ちなみに劇場版II(剣で戦ってないルート)ではそのセリフが変わってて最初の宇宙世紀は5000年前だ。
どんな分岐だ。剣で戦わなかったせいか。それともビッグD作戦がフラグだったのか。

また「戦争と平和」の101ページに書いてあるのだが、「∀ガンダム」で語られた年数は意識的にいい加減にしていたようである。だから10000年が5000年になったりするのだが、ただムーンレィスから見た「宇宙世紀」が500年前ということはない気がする。
つまりR.C.1014年とは「宇宙世紀」の範囲が違っている。
「正暦」はムーンレィスとアメリア固有の暦なのかもしれない(ディラン・ハイムの墓に2345という年が書いてあるので、北アメリアでも使われているようである)。ターンエーにより文明がリセットされてずいぶん経った正暦1800年代はまだ地球ひどい時代が続いていて、クンタラがいたのがこの時代で、後でまだ宇宙世紀だったことになったと考えれば、ここはまだ辻褄は合わせられる気はする。

アメリア以外の地名

アメリアという国名は残っているが、ゴンドワン、イザネル大陸、エルライド大陸という地名は全て∀ガンダムと変わっている。
500年の間に名前を維持できたのはアメリアだけなのか、500年前にアメリアで使われていた地名が全部おかしいのかのどっちかだろう。
ちなみにキャピタルのあるエルライド大陸は∀ガンダムでは「南アメリア大陸」だった。これらはアメリアとムーンレィスの視点でつけられた地名だとも解釈できる。

トワサンガ

このあたりからだんだん説明が苦しくなってくるが、正暦2345年にはトワサンガはもうあった。ネオドゥは1000年前から使われているので500年目。技術も十分だ。
ムーンレィスとトワサンガに接点はないのだろうか?
トワサンガはR.C.1014年時点で、少し前に存在が公認されたレベルの鎖国コロニーだ。それでも月の裏側まで都市を持つムーンレィスから観測できないということはないように思う…
お互い存在は知っていてもあまり関係は良くなかったのだろうか。それとも当時のトワサンガはムーンレィスの分家だったのだろうか。それならビーナス・グロゥブの存在を黙ってない気がするが。
トワサンガ自体は産業革命が100年前に終了したと言ってるので(14話)、500年前はネオドゥ以外は今よりは技術が劣っただろうが。

・ムーンレィス

あれから500年後のムーンレィスはどうなってしまったのだろう。ムーンレィスは500年の間に全員アメリアに帰還したのだろうか。それともまだ存続しているけど、鎖国状態に戻っちゃった?
何でかは知らないが、R.C.1014年のアメリアは月のムーンレィスと交流していた様子は見えなかった。
しかし裏でムーンレィスが残っていないとは言い切れないところもあるのよね。年代に無頓着な富野だが、アメリアという地名を出しておいてムーンレィスを忘れているというのはちょっと考え難い。だからってトワサンガがムーンレィスと同じだとすると年代が合わないのだが…
実はムーンレィスこそが弱小国家で、トワサンガと比べてずっと遅れていたのか?
Gレコ時代には話題にもならないような勢力に過ぎなかったかも…

ビーナス・グロゥブ

フォトンバッテリーを製造するビーナス・グロゥブトワサンガから分かれ成立したのがR.C初期。これは設定にそう書いてある。
文章化された設定自体には富野はノータッチであろうが、アニメでもロザリオ・テンが千年とか言ってるので、富野の発言や指示から設定化された文章なのであろう。

クレッセント・シップ

トワサンガとの移動に使われていたクレッセントシップは、R.C.1014年時点でも抜きん出た技術であることが示されている。研究会の富野の言い方からすると500年前にはまだなかったように思える。500年前はフォトンバッテリーを運ぶのも一苦労だったか、ビーナス・グロゥブの位置がもっと近かったのか。
1000年前のビーナス・グロゥブのありようはまた違うことが伺える。

リギルド・センチュリー

アニメやら設定やらをいろいろ見直したのだが、リギルド・センチュリーの起源がいつか定義を示す情報はないようだ。ただし1000年という数字はビーナス・グロゥブの成立時期と一致する。
この1000年という年代設定は「∀ガンダム」で出たいい加減な2000年とか1万年とかよりも具体的に考えられているように見えた。
フォトン・バッテリーの配給のような、スコード教にとって重要なイベントが起きた年がリギルド・センチュリーの元年なんだろうということは想像できることである。
つまりムーンレィスが地球に帰還とか言ってた頃にはビーナス・グロゥブができて500年経ってたことになるが。 

キャピタル・タワー

これもリギルド・センチュリーの初期には運行開始していたのではないかと思えるのだが、どうも運行開始時期を特定する情報はないようだ。
これも1000年くらいのつもりで作ってると思うけどなあ。第9話では「リギルド・センチュリーの間運行してこられた」とは言ってる。
ビーナス・グロゥブフォトン・バッテリースコード教キャピタル・タワーの運行開始、これら全部が1000年前からそう離れた時期に起きているとは思えないし、たぶんそうだろう。

正暦2345年には既にキャピタルタワーが存在していたと考える場合、わざわざザックトレーガーとか動かした人たちの立場はどうなるんだって感じだが、意外と説明がつくかもしれないギリギリじゃないかと思う。
キャピタル・タワーが画面に出てこない理由は、単純に遠くからは見えなかったため。
そして500年前の時点ではムーンレィスもアメリアもスコード教とつながりを持っていなかった。タブー的な理由で接点を持たないように気を付けていたという説明も可能ではないだろうか。
だからザックトレーガーを使ったし、フォトンバッテリーを持っていないのも文化圏が違っていたから。
いやトワサンガとムーンレィスはつながってて、500年前の時点でフォトンバッテリー機が混ざっていたと考えてもいいのかもしれないが、そのつながりは強くはないように感じられる。

アメリアはR.C.1014年の時点でもスコード教の信仰があまり盛んでないことは作中の描写でうかがえる。(タブーを気にする兵士がいたり「オーマイスコード」と叫んだりということはあったので全く無信心でもないこともわかる)
またクリムが「キャピタルのクンタラ」って言い方をしてるので、キャピタルと接点を持つ前のアメリアにはクンタラの概念がなかったんじゃないかという気がする。
アメリアとキャピタルが接点を持ったのはごく新しい年代であろうと。
このへんの辻褄が合う描写が多いため、アメリアとキャピタルの歴史的関係はある程度考えられてるのではないかと思える。

「500年前にはキャピタルタワー運行してなかった説」も少し考えてみるが、そっちにしろアメリアとスコード教につながりはなさそうに思う。僕にはキャピタルがアメリアから分化した集団とは思えないためである。おそらくスコード教のほうがアメリアより歴史が古いつもりで作っている。
キャピタルタワーの運行500年以内説の場合。当初はフォトンバッテリーは別の方法で地上に運ばれていた、トワサンガ方面とキャピタルとの交流を強化するためにタワーを打ち立てた。アメリアもムーンレィスもその流れには関係ない。こんな感じでどうだ。
なおキャピタル・テリトリィは移動できるようなので、1000年間同じ場所にいたかはそれもわからない。たまたま正暦2300年代だけ運航休止していた、そのタイミングだからムーンレィスが動いたという解釈も成立するかもしれない。

・キャピタルと月光蝶

スコード教が持っている宇宙世紀の知見や技術も、純粋に1000年前から記録され受け継がれたもののように見えたのは確かである。500年前にムーンレィスとアメリアの交流があったとして、スコード教はそれらと別に既に宇宙世紀を知っていたはずだ。

さて月光蝶による地球文明の埋葬が正暦初期だとすると、キャピタルではそこから1800年の間に発展して宇宙世紀を終了させ、リギルド・センチュリーに移行する出来事があったと考えることができる。
しかし、月光蝶の年代がいつにしろ、キャピタルタワーはどうも宇宙世紀からあったものを利用しているらしい。1800年前に埋まってたのを掘り出したのか?
あと埋まってないジャブローは何よ。

新たな仮説。月光蝶は南米を埋めてない。
月光蝶宇宙世紀の終焉に起きた象徴的出来事であるが、別にこれが地球のすべてを埋め尽くしたわけではなかったのではないか。宇宙世紀末を決定的に終わらせたのは月光蝶だけではなかった。北米を滅ぼしたのはターンエーで、ムーンレィスはその記憶を持っていた集団だが、対する南米あたりでは別にガンダムによるカタストロフィではなく、別の手段でのゆっくりとした衰退が起き、クンタラは生まれたがキャピタルタワーの原型は維持され、ジャブローの残骸はわざわざ埋めなおされなかった。
これはターンエーがGセルフほど強くないという話にもつながる。ターンエーに惑星レベルの力はなく、北米くらいが限界だったという仮定さえ成立する。そこまで弱くないとしても、南米の一部が何らかの事情で例外的に回避できていたと考えることは不可能ではない。
先にちょっと触れた通り、月光蝶宇宙世紀末=正暦1800年台説もあるが、「ターンエーそんなに強くない説」はこの場合でも上手く適合する。

・アデスの樹関連

いよいよ最後の話題だが、キャピタルタワー関連でたまに考察されてたアデスの樹についても触れておく。
∀ガンダム」32話と33話で語られた伝説によると、天と地をつないでいだアデスの樹は巨人の力によって切り倒され、アデスの枝=ザックトレーガーだけが残ったという。
ここにあった「アデスの樹」というのがキャピタルタワーだったんじゃないかと放送前に予想してる人が若干いた。順番が逆だからその予想はもう無効だろうが。

マニューピチはおそらく南米西側のほうの山地だけど、キャピタル・テリトリィは平地で、ギアナ高地の近くである。立地も微妙に違う。しかも遠すぎもしない微妙な位置にある。
アデスの樹が軌道エレベーターの残骸なのかどうかはよくわからん。伝説の通りならモビルスーツ的なものが軌道エレベーター的なものを破壊したくさいのだが、何しろ伝説である。
そして伝説の通りなら樹を切り倒した場所に枝としてマスドライバーをあえて立て直したことになるが、これは正しいんだろうか。伝説は間違ってて最初から枝しかなかったか、近くの別の場所の伝説──キャピタルタワーとか──と混ざったか、もしくは「樹」というのはエレベーターではなく地上のマスドライバー部分のことなんじゃないか(放送当時僕は宇宙エレベーターというものを知らなかったので、復興したマスドライバーが樹なんだと思ってた)。

アデスの樹がエレベーターだと断定する場合、アデスカにキャピタルタワーがあったけど500年前よりもっと昔に使用不可能になり、アマゾン付近に移動させられていたということで。
マスドライバーと別にアデスの切り株が残っていたことも説明はできる。あれはキャピタルの抜け殻だったのだ。

ちなみに剣で戦ってないほうの∀ガンダムだと、クワウトル王と剣で戦っていないだけでなくアデスカの存在そのものもなくなってるような気もするが、その想定は今は忘れよう。

・あきらめてパラレルにする

上記のように、一部強引さのある新解釈を使うことで∀からGレコは十分つながりうると思うが、しかし正直だいぶ強引な手を使わないと説明が難しいようにも見える。
ある程度明確に未来であることを意識しているのは疑いようがないが、やっぱりしっかり500年の歴史を想定した続編でもなさそうだ。
ただ、こういう歴史の食い違いも、監督から見れば結局は剣で戦ったか戦ってないかくらいの違いでしかないんじゃないか。いろいろ違うように見えるんだけど、明確にパラレルというほどの意識もなくやってると。

月光蝶をGレコに出している以上、「月光蝶のようなものによる文明の埋葬」が意識されていることもほぼ間違いない。
Gレコをパラレルと考える場合も、おそらくアメリアはアメリアであり、キャピタルは月光蝶を生き抜いた勢力なんだろうと思う。
パラレルのほうが説明しやすい要素があるとして、それは月光蝶の年代やキャピタルタワーの存在感、そして∀ガンダムの強さ、ジャブローの位置など、多くは受け手のさじ加減次第で揺らぐようなものばかりではないだろうか。

ところで富野監督は年表は嫌いだと過去に公言している(「戦争と平和」96ページ参照)。ターンエーの世界とのつながりを意識していたとしても、正暦という年号に対する思い入れはないということもありうる。Gレコがターンエーの後の500年は合ってるとして、ターンエー前の宇宙世紀からの期間が500年でも2000年でも1万年でも同じだと思ってる可能性はかなりある。
受け手からしても、実際ギンガナム艦隊の演習期間が500年でも2000年でも変わりはないのだ。
Gレコのほうが未来だと最初から公言していたら、こういう年代の整合性まで関係者がしっかりと考えてくれたことだろうが、それが良いこととは言い切れない感じも確かにある。

つながりが適当であることを許容しても考える必要があるのはムーンレィスだ。
500年の間にムーンレィスがどうなっているのか、アメリアという地名を使って月光蝶をわざわざねじ込み、月が見えるトワサンガという地を設定した富野がムーンレィスの存在を忘れているとはちょっと思えない。
彼らがリギルド・センチュリーにおいてどうして姿を見せなかったのか、パラレル以外で納得できる説明を富野は既に考えているということは当然ありうる。
だが逆にムーンレィスの存在を覚えていたとして、その存在そのものがなくなってしまったパラレル世界を意識的に作っているかもしれないのも富野である。
何もわからない!

あとアデスの樹の存在は忘れてたと思う。

・やっぱり∀ガンダムのほうが強い?

∀ガンダムの性能は盛られすぎている」という仮説を述べたが、「強すぎるターンエー」に富野がノータッチだったと断定はできない。つまり過去の富野が考えたターンエーが今の富野が考えてるターンエーより強かったということであれば。
過去の富野が現在の富野と別の考えを持っていたと仮定すれば、過去の富野を現在に復活させることができればターンエーは再びGセルフより強くなるかもしれない。そのときは∀ガンダムのほうが未来に戻るかもしれない。

ただ、Gセルフのほうが未来だとして、実のところ∀ガンダムより大幅に強くもないように思える。月光蝶を生産し始めた世界においてもターンエーの性能はまだ十分高いと評価されていることも間違いなく、だからこそ特に過去と比べて富野評価が下がったという実感はないかなあ
やっぱり「∀ガンダムの性能は盛られすぎている」という仮説のほうが個人的にはしっくりくるのである。

・やっぱりGレコが前だとする可能性

トミノの発言は公式設定に反するものであるため、富野の意向が敗れやっぱりGレコが過去になるかもしれない。
……いや今更できないかな。富野発言は闇に葬られたものの、関係者の記憶を消す方法はない。あれは珍しく無修正で全国配信されてしまった富野発言である。設定がどうであろうともはや関係ないことは見ていたみんな知ってる。
そして見てなかった人には不正確な伝説が広がっていくのだろう。
これが「アデスの樹」の伝説が信用できないのと同じ理屈だ。

Gレコが前だとして突き進む場合、普通に他のアナザー系と同じ位置に含むだけだと思われる。Gレコは宇宙世紀ジャブローギアナ高地宇宙世紀)の次の時代で軌道エレベーターがある世界。
研究会でひとつはっきりするのは、Gレコが前だとするパターンを作者が全く想定していないことだ。
Gレコが前だとしてキャピタルタワーがアデスの樹になるものではないし、アメリアという国名もなんとなく再登場してるだけで、G-セルフはメチャクチャ強いけど∀ガンダムとの強弱関係も歴史上の意味はなくなる。
これだとある意味黒歴史を全く意識してないガンダムということであり、未来にするよりも重大なタブー破りになっている。

黒歴史の否定?

本作に「打倒∀ガンダム」「黒歴史という原則の否定」みたいな意図はないと思われる。
だって、そんなのあったらさすがに関係者が気づくように作っただろ…
先に書いたように、富野監督は「黒歴史の原則」が原則になってること自体に気づいてもいなかったのではないかというのがこちらの見解となる。
続編として作ってたことは黙ってたけど、研究会の困惑混じりの反応は言わなくても誰か気づくだろと思ってたんじゃないか。
(実際、キャラクターデザインの吉田健一は気づいていたと発言している)

Gレコが未来になったところで、過去に宇宙世紀があった設定はそのままなので、原則は原則として機能し続けるようにも見える。であれば、相変わらず今後ほとんどすべてのガンダム∀ガンダムの前ということになるだろう。最後のガンダムが代替わりしただけ。
だったら、Gレコに否定としての効果はないかというと、これは実は効果はある。「黒歴史の原則」が実は富野の意向ではないことがはっきりしたからだ。富野自らがタブー破りをしたのである。そしてその行為にタブーだという自覚すら感じられない。
だから今後は∀より未来のガンダムを富野以外が作ったり、黒歴史で語られなかったアナザーは実は∀より未来の話だったとか言い出しても別に怒られないんじゃね。
宇宙世紀を経た世界に、軌道エレベーター作った「西暦」が挟まるってのは、やっぱりどうかと思いますし。
いやGもWもXも∀に「ちゃんと」つながっておらず、最初から全部パラレルだったのでは…
冬の宮殿で目撃されたのは「アナザーっぽい何か」の映像だったんじゃないのか。あれ全部「宇宙世紀」だし。

Gガンダムの肯定をしなくなった

黒歴史に関連して富野監督がよく言ってたのが「Gガンの肯定」だ。WとXはその他ガンダムにひっくるめられており、個別に言及はしてない。Gについて言及が多かったのは、当時異端作扱いだったGだけ肯定すればあとは全部肯定できるという程度の意図があったと思う。だからシャイニングフィンガーを出す必要がある。
この試みは実際成功した。Gガンをパラレルワールドとせず共通のガンダムワールドに取り込んだことで、ゲームみたいな作品で単なるゲストではなく、世界観に沿った「設定」としてシャイニングやゴッドを出すことができるようになった。
ただ、これはGガンがトンデモガンダムとみなされていた90年代末の話であり、その肯定が成功した21世紀になってからあえてそれをやることもなかろうかとも思う。

Gレコの前の「宇宙世紀」は、未来世紀もコズミックイラもアドバンスジェネレーションも原則上は入ってなきゃいけなかったのだが、Gレコはわざわざそれらへの配慮はしなかった。
もちろんGレコが「最初の宇宙世紀」の次あたりの時代だと思ってた視聴者もそれを不自然に思うようなことはなかったわけだが…
たぶん監督自身もリギルド・センチュリーを「最初の宇宙世紀」の次のつもりで作ってるよね…。
トワサンガ2000年の歴史はサイド3発祥から数えた歴史である可能性もある、というか実際そう見えた。そうだとすれば未来世紀が挟まるスペースは厳しい。

Gレコの語る「宇宙世紀」にデビルガンダム戦があったかどうか、まったく考えてないかは知らないが、ターンエー当時と違ってGガンの肯定を重視してないことは確実だろう。Gレコのテーマで「Gガンの肯定」をやり直す必要は特になく、それはもう過去にやったことだ。
…実際は再度やったほうが良かったのかもしれない。それをしなければ∀ガンダムを全肯定したことにならない…

富野がこういうGガン以降の歴史否定主義に動いたとするなら、これを打倒するために宇宙世紀側からGガンを肯定するくらいのことをやってみせるのが公式側の仕事であるな。 

・公式サイドでの認知

研究会の後、公式設定には何も影響が起きていないわけだが、どうもGセルフをターンエーより後の機体と位置付けているっぽい媒体がふたつほど。

ひとつが「機動戦士ガンダムUC テスタメント」2巻収録のエピソード「ヴェルギリウスの奉送」(ガンダムエース2016年7月号掲載)。
これがモビルスーツの視点でポエムを流すというかなり特殊な漫画なのだが、この2巻の最終エピソードでは、ユニコーンを見つめるネオ・ジオングの残骸が未来のガンダムたちを見るという内容になっている。
文章で説明して意味がわからんが、なかなかの名作だぞ。
この回ではユニコーンに続いて順番にΞガンダムF91クロスボーンガンダムX1、VガンダムV2ガンダム。そして「異なる時間 此処ではない宇宙においてもなお…」とアナザー系の姿が映し出される。
その順番はシャイニング、ウイング、X、ストライク、エクシア、AGE1、
そしてターンエー、G-セルフが挟まり、バルバトス。最後にビルドストライクのプラモだ。
アナザー系を「ほぼ発表順だが、ターンエーだけ違う位置、ガンプラは別枠」という、変則的な順序で描いている。しかもターンエーの位置が最後ではなく、Gセルフより前である。
最新作のバルバトスが最後なのはいいとして、黒歴史的なルールを重視するならターンエーが最後で、最新作でないGセルフはAGE1の次に入るべきだろうし、黒歴史と無関係ならターンエーの位置は発表順でXとストライクの間だ。
これは「∀とGレコ」をひとかたまりにして、「このふたつを最後」とする別枠に置いた順番である。たぶん。

もうひとつは某ゲームで、最新作のバルバトスだけでなくG-セルフがゲスト出演してることだが、まだ僕自身が出せてないので詳しくは書かないでおくか…。
いやドムフュンフとサイコガンダムMk-IIIを出した時点で気が抜けちゃって…
こっちは同じくゲストのバルバトスと明らかに別格の扱いで、単なる新作補正じゃなさそうである。
たぶん。

・オーストラリアには穴がある

∀以降、「黒歴史入り」はガンダムを作る上で意識されることもあった。SEEDはアストレイで少しそれらしいものが出てきた。
00は違い、黒歴史との整合性を全然意識しない「西暦」を舞台にしていた。明確に否定の意図があったかは知らない…
AGEは黒歴史と同じ発想のものが出てきたけど、あれは似てるだけで関連までは意識してなかった感じ。

研究会のしばらく後に始まった「鉄血のオルフェンズ」は、それまでのぼんやり共通世界?みたいなガンダムとは一線を画し、設定段階で黒歴史入りを意識していた可能性がある。
第4話で出た世界地図のシドニーあたりに大穴が開いている。そして穴の開いた理由の説明は何もなかった。過去作オマージュとして厄災戦で開いた穴なのか、あるいはこの世界のオーストラリアは何千年も前にコロニーが落ちた時代からこうだったのでは…
このような描写をしたガンダムは過去にない。しかし宇宙世紀が最初の世界なのだとすれば、原則上シドニーにはクレーターがなければならないはずであり、こういう描写は入れなければならなかった。

この鉄血世界と黒歴史に関する考察は、全く盛り上がらなかった。
黒歴史に入ってるかどうかなんて実際大半の人にはどうでも良かったし、一部のどうでもよくない人も富野の発言で駆逐されてしまったのだと思う。

余談だがコロニー落としシドニーの一回というのは富野監督の関わっていない後付けのため(コロニーは何個も落ちてる設定が先にある)、富野ガンダム世界が全部宇宙世紀の延長として、シドニーにクレーターができてる設定があるかは定かでない。
Gレコはオーストラリア出てこなかったなあ オストラって大陸の名前はちょっと出てきたけど

まとめとして。

Gレコは間違いなく∀ガンダムの未来を意識した話である

しかし、それでは少々辻褄が合わないようにも思える。
正暦という年号が機能しなくなっていたり、宇宙世紀の終わった時期が1800年ほどズレているように見えたり、月光蝶でカバーしきれてない地域が存在したり、途中の未来世紀がなくなってるように見えたりといった些細な違いが見受けられる。

些細な違いである。
この長い記事で書いてきたように、一見辻褄が合わない部分も少し想像すれば説明可能、もしくは力づくで説明できる程度の小さな矛盾でしかない。説明は可能だ。
だいたいビッグD作戦をやって剣で戦わなかった結果、宇宙世紀が5000年短くなる理由なんてどうやっても説明できないんだし、それに比べれば些細な違いであろう。
しかも、これらは考えなしに矛盾しているのではなく、ちゃんと考えていると思われる部分も混在している。どこまでがそうなのか識別するのも困難。
考えてみりゃ、この監督は前からこういうことやってきた人じゃなかったか。小説とアニメで違う話をやったときからずっと…

もうひとつ重要なのが、Gレコは全てのガンダムを肯定する作品ではなかった可能性が高い。だって放送前からそんなこと一回も言ってないし。
∀ガンダムの一部を肯定しているのだろうが、全てまでは肯定しない。全肯定は前世紀の「∀ガンダム」の専用ルールであって、富野ガンダムはいつもそれをやってきたわけではない。
いや∀ガンダムだって、本当にそこまでデカい話をやれていたのだろうか、設定としてアナザーを含む黒歴史は作品にそこまで重要だったのだろうかと問い直す機会かもしれない。

・劇場版はどうなる

劇場版は当然ターンエーとの順序に何らかの決着をつけるとは思うのだが、以上のような数々の疑問に答えるべきなのだろうか…
作品の見方として「∀よりずっと未来のスーパーロボットが暴れる話」であることはかなり重要だと判断する。しかし、そこ以外の年代やら何やらの整合性ははっきりさせても特に面白くはならないかもしれないというのが、ここまで考えてきた結論に近い。
そもそもこの記事で示したのはガンダムはそんなしっかり考えても面白くならないよという話である。
Gレコは未来。だいたい未来。それでいいじゃないですか。
どうしても気になるなら劇場版ではっきりしますよ。今は適当だけどだいたい500年後ということで納得しておきましょうよ。

劇場版本当に作ってるのかな…
作ってたとして500年後が明言されるかされないかだけで、舞台設定が大幅に変わってくる気もしないが…
やるのなら応援するので何とかしてください。

そして追記 劇場版3作目までの範囲に特に∀後であることを示すものは見当たらなかった。4作目からはひょっとしたらあるかもしれないけど。