神殿岸2

2と言っても実質1.5みたいなもの

SRPGの前史にあるのはファミコンウォーズではなくガンダム

最近ゲームの歴史を語るのが流行りなようで。
なんか適当なことを書いた人がいらっしゃったり、ツッコミが入ったりしたついでに電ファミの過去の記事に飛び火して別方面からツッコミが入るなどややこしいことになっていた。
ゲーム語りの基礎教養
ゲームライターの多根清史不定期連載。
ドラクエ以前のコンピューターRPGならともかく、正直に言って多根さんがPLATOのRPGやコンピューター以前のウォーシミュレーションなんかを実体験で知ってると思える理由はなく、どこまで勉強して書いてるのか、そもそも書く必要がどこまであるのか、疑ってはいたが、僕はファミコンより古いゲームのことなんか知らんし、どうこう言う立場でもなかった。
で、ドラクエより古いPCのRPGについて僕よりずっと当時を知る人の目に届いて今頃ツッコミが入ってる。
…いや、実は僕が知ってるファミコン以降のゲームについても、非常に気になる問題があるのは気づいていた。が、気づいたときにはタイミングを逃したので黙っていた。だが今このタイミングに乗っかるのも遅くはないような気がする。
人は流れに乗ればいい。僕もゲームの歴史を適当に語ってみたい。

『ファミコンウォーズ』がなければSRPGが誕生しなかった──戦略SLGのメジャー化、RPGと融合させ『ファイアーエムブレム』を生んだ任天堂の功績【ゲーム語りの基礎教養】

この記事の内容について書く前に、この記事の筆者には重大な事実誤認があると思える。ファミコンには大戦略よりもファミコンウォーズよりも早く発売している超有名なウォーシミュレーションが存在するのだ。
それこそが「SDガンダムワールド ガチャポン戦士 スクランブルウォーズ」なのである。

ディスクシステムスクランブルウォーズの発売は87年11月20日だという。書き換え開始は少し遅れて88年1月20日
だがファミコンウォーズの発売日は書き換え版よりも半年も後の88年8月12日。
※発売日は91年ごろのファミマガの付録でも確認した。スクランブルウォーズ販売版の日付だけ確認できなかったのでネット情報だが、違っててもおそらく大差はないだろう。
ちなみに電ファミの記事でボロクソに書かれてるファミコン大戦略だが、こいつは88年10月11日でファミコンウォーズよりさらに後発である。どうもこの記事はここから既に間違えてるようにも読めるが、これは話しやすくするためにその事実を省略しただけかもしれないのでまあいい。
重要なのはスクランブルウォーズの発売がファミコンウォーズと比べても異常に早いことだ。
そして問題なのが、この電ファミの記事で最も絶賛されているファミコンウォーズGUI部分なのだが、それがスクランブルウォーズで実装されたものとほとんど同じだということだ。
四角いマスで区切られた将棋盤のような世界に、兵器を16×16のアイコンで表示することを、スクランブルウォーズはとっくの昔にやっていた。これはファミコンウォーズSDガンダムから直接影響を受けている可能性もある。いや、赤軍と青軍に分けてアイコン化したのがSDガンダムが最初かは僕の知識ではわからないし、別にSDガンダムがなくても誰かがたどり着いていたって気はするが…いずれにせよこの件について任天堂はスゴイと言うのはだいぶ無理がある。
ファミコンウォーズが名作であることは疑う余地はないが、ことアイコンという点においてはファミコンウォーズは全く先駆者ではない

多根さんはこの前の回スクランブルウォーズについてもスパロボとともに言及しており、どんなゲームかは当然知ってるはずであるが、発売順に気づいてなかったんだろうか。気づいていたらアイコンについてこんな書き方はしてないはずだ(気づいてこんなことを書いてたほうがタチが悪い)。
これはかなりまずい。
発売順を知らない人からは、スクランブルウォーズはファミコンウォーズガンダム版程度のものに見えているかもしれないが、歴史的にはファミコンウォーズのほうがSDガンダムを元ネタの大戦略に戻したゲームなのである。アクション戦闘をやめたSDガンダムだったのである。
これは超有名な話だと僕は思ってたので(SDガンダムが最初とは断定せずとも最初期の本格SLGであることは「ファミコン10年!」って古い本にも書いてあった)、名の知れたゲームライター、そしてチェックしてる編集までも知らないというのは信じがたく、何かの勘違いじゃないかとさえ思えるのだが…

いや、逆にPCのSLGから考えている人にはSDガンダムは眼中になかったかもしれない。
スクランブルウォーズ」は僕の認識ではファミコン最初のウォーシミュレーションなのだが、一発目にしていきなり戦闘がアクションというすごい変化球でもある。ゲーム設計の元ネタは大戦略の可能性が高いが、戦闘以外もかなりアレンジがされている。
本作のモビルスーツ(一部モビルアーマー)は全て歩兵扱いであり占領はどの機体でも可能。壁や山以外の全地形に全機種が侵入可能。グフでもズゴックでも宇宙で使えるシンプルな設計だ。
唯一占領能力を持たないのが輸送機にして戦艦であり飛行機でもあるホワイトベース
水中用を除いて得意地形の概念はなく、「戦闘機に対する高射砲」「ペガサスナイトに対する弓」のような兵器の相性もなく、モビルスーツは強いやつが強い。
戦闘がアクションである本作においてモビルスーツの性能差は戦力の決定的な差ではないので、ヒートロッドの強いグフを使ってガンダムエルメスを狩ったりすることはできる。だからといってザクではサイコガンダムには勝てん。本作のサイコガンダム本当にサイコガンダムのような強さをしており、ウデマエで何とかなるレベルを超えている。しかし強い兵器はコストが高いし、機種によっては移動力が劣ったりする。いくら強いモビルスーツでも補給しなければそのうち倒れる。
アクション戦闘と豪快な機体格差は、原作の世界観を完全に再現しているのである。
というか、そんな複雑なバトルシステムじゃないとはいえ、この時期のファミコンでは対戦型のアクションもかなり珍しいんじゃないか。SLGも対戦アクションもガンダムとの相性が良かったことは後の歴史で証明されているが、このゲームはそれをいきなり両方やっている。

後から見れば、スクランブルウォーズは大戦略から盛大に簡略化されたゲームである。だがこのゲームのメインターゲットは明らかにPCゲーやSLGというジャンルも知らない子供だ。ガンプラブームも過ぎ去り、ガンダムを再放送で雑に見ただけの子供でも「ズゴックは水中が得意」というルールはすぐ理解できたし、移動範囲がまともに表示されてなくても何か適当に動かしてなんとかした。
不親切とも思える操作、CPUのクソ長い「カンガエテマース」は、ゲーム自体の面白さで押し切って慣れたのである。

いきなりファミコンSLGの最初期でここまでのものを、しかもキャラゲーで作ったという事実は、ファミコン以降を知ってる僕にもかなり異例なことだったように見える。ともかくこのゲームがSLGに全く興味ない層に広まった可能性はかなり高い。むしろ元からSLGに興味のあった層にはぜんぜん届いていない可能性さえあるが、ゲームメーカーには伝わっただろう。
ファミコンでウォーSLGは実現できることを本作が証明したことは、翌年のファミコンウォーズの発売にも影響している可能性はある。
当時、ファミコンウォーズファイアーエムブレムは海外に展開しなかった。ターン制、グリッド型のSLGというジャンル、国内ではSDガンダムという強烈な先駆者がルールをわからせたからスッと馴染んだという背景が無視できないように思う。
ついさっきそんなことを考えた。
これ超有名って書いたけど、たぶん国外では全然知られてない。SDガンダムのゲームが海外で売れるイメージなんてあるわけないし、ほとんど存在も知られてないだろうが。
つまり『機動戦士ガンダム』自体の海外知名度が、今海外でも人気のファイアーエムブレムの国際展開の遅れに影響した可能性がある。

ファイアーエムブレム自体も一見するとファミコンウォーズがベースのように見えるのだが、実はガンダムのほうの影響が否定できない要素が見られる。
まずユニットが自軍青と敵軍赤で、SDガンダムのほうに合わせている。ファミコンウォーズは1Pが赤なのいまだに変だと思う。
「ユニット」と呼ばれるけど単独の兵士だし、ライフの数値も似てるし、初期配置ユニットも重要で首都(城門・玉座)にボスキャラ(武者ガンダム)がいる設計もSDガンダムのほうだ。なんならサイコガンダムのような強大なユニットも敵味方の両方にいて、それを大事に大胆に使うという兵器運用もガンダムでもう予習済みだ。
まあこの時期は他にも類似のSLGがあったかもしれないので、全部ガンダムって言うわけじゃないが。

スクランブルウォーズ」はGBAで発売されたファミコンミニ30タイトルで唯一のキャラゲーだ。ファミコンウォーズですらラインナップされてないことを考えても、その歴史的意義は任天堂もよくわかっている。
…ただこのゲーム、名作ではあるが同時にCPUの思考時間がクソ長いとか機体格差がデカすぎるとか、露骨な問題も結構ある。有名である。
基本的にはサイコガンダムサイコガンダムな感じを味わいたいとかの理由がない限り、続編でほぼ上位バージョンのカプセル戦記のほうを遊んでもらいたい。こちらは当時も今も間違いなく面白い大傑作で、もうちょっと移植ハード増やしてほしい。
スクランブルウォーズ」は歴史的意義はあるけど、それがシリーズ最高傑作というわけではないのであった。