神殿岸2

2と言っても実質1.5みたいなもの

メトロイドヴァニア論の中でのスーパーメトロイド

昨今流行りのメトロイドヴァニアという言葉は、最初は現在のようにジャンルのことを指すのではなく、悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲ひとつを指した言葉だったようだ。
月下はメトロイドっぽいCastlevania悪魔城ドラキュラ)だったからMetroidvania
当時、スーパーメトロイドや月下のような「広大な迷宮を自由な順番で攻略する」「途中で能力を得ると行動範囲が広がる」という特徴を持ったアクションゲームはとても少なかった。ファミコンスーパーファミコン時代にもメトロイド以外にも少しはあったのだが、少しだ。
月下の夜想曲はその少ない中でも稀に見る完成度の作品で、その後同じジャンルの探索型悪魔城を多数産むことになる。
それらもまとめて「メトロイドヴァニア」と呼ばれるわけで、このままジャンル名になっていったのは探索型悪魔城がどんどん作られたからだ。 

月下も正確には『スーパーメトロイド』に似ていたというべきだ。『メトロイド』『メトロイドII』とゲーム設計に少なくない差異がある。
そして、ここにかなり気になる問題があり、メトロイドヴァニア定義を語る人が多い中で、割と、スーパーメトロイド自体の話をしている人が少ない気がする。もしかしたらやったことがないのか。
よくあるのは、経験値のないメトロイドのほうが月下よりハードルが高いという、完全な誤解だ。
スーパーメトロイド』はそれほど難易度の高いアクションゲームではない。簡単とまでは言わないが。
メトロイドシリーズにはサムスリターンズのように非常に難易度の高いものもあるが、どっちかというとスーパーメトロイド程度の難易度でおさまっているもののほうが多い。
というか、月下の夜想曲』だってそこまで簡単ではない。悪魔城の中では簡単なほうであるが、スーパーメトロイドと比べて簡単ということはない。特に序盤はレベル上げも難しいし、無理してレベルを上げてもそんなに強くならないぞ。
月下が簡単に思えるのは主に後半のボスが軒並み弱いことや、救済用のチート武器があることなどによるが、このバランスはシリーズが進むと見直されており、『月下』以降の探索ドラキュラは『白夜の協奏曲』以外はどれも月下より難しい。つまりほとんどスーパーメトロイドより難しいと思っていい

8月追記:正確な初出は『サークルオブザムーン』ひとつを評しての言葉、らしい。ちょっとそれが本当か個人的には確証がないのだが…
サークルオブザムーンは月下と違い、直接メトロイドをオマージュしている要素はあった)

そんなわけで、特に難しくない『スーパーメトロイド』の話をする。
スーパーメトロイドは1994年発売のSFCソフトで、シリーズ3作目であり、初代メトロイドのリメイク的な要素もあるが、ストーリー上は続編である。
ただし過去作の内容はゲーム冒頭で説明されるので、知らなくても大した問題はない。

ゼーベスに降り立った初期状態のサムス。前作までに拾った装備は売ってしまったのだろうか、説明なく失っており、基本的なジャンプとビームくらいしか使えない。行ける場所もごく限られている。 

まずはゲーム開始してすぐに行けるエリアで「丸まり」を手に入れる。これで細い通路を通れるようになる。 

次に周辺を探索すると、すぐにミサイルを発見できる。これで赤色のゲートを開くことができる。 

来た道を引き返すと、ミサイルで開くゲートが何個かあり、そのひとつにボムがある。これで「ビームでは壊せないがボムで壊せる壁」が壊せるようになる。

こうやって装備を取得し、行動範囲をどんどん広げていくのが『スーパーメトロイド』の特徴で、また言い換えればゼルダの伝説を横スクロールにしたようなゲームとも言える。
メトロイドヴァニアという言葉は悪魔城でRPG要素が付与されたような印象を与えるが、実際は本作の時点でRPG的要素が強い。
そして、装備の取得順はかなり固定されている。この後もスーパーミサイル、パワーボム、グラビティスーツと言ったアイテムでサムスはどんどん強くなり、惑星全域にアクセスできるようになるが、普通のプレイではこれら「重要な装備」を取る順序は変更が効かない。
上記の丸まり→ミサイル→ボムの順番は完全に決まっており、ボムがなければ次のスーパーミサイルのある場所には到達できない。
こうした重要な装備はボスが守っていることも多いため、自然とボスを倒す順番も固定される。ボスの強さもサムスのパワーアップに応じて設定されており、後に出るボスほど耐久力も攻撃力も高い。
攻略順は自由なように見えて、あまり自由ではない

スーパーメトロイドには数多くのやり込みが存在し、いまや実機でもボスを倒す順序を通常と逆転する「Reverse Boss Order」(RBO)という制限プレイも知られているが、これはバグを利用したイレギュラーなものだ。『スーパーメトロイド』は研究されすぎているため、攻略用のバグも多数発見されているが、本来このゲームでボスを倒す順番は決まっている。スポア・スポーンもバグなしではスルーできない
そもそもボスの基本順序が決まっているから、逆順で倒すというやり込みも発生している。本来、スーパーメトロイドはボスを倒す順番は自由ではなく、バグありきで自由度が高まっている。
※リンク先の記事、まさにスポア・スポーンがスルーされる原因であるMockballというバグ技を解説しているが、これはタイムアタック用のテクニックであり、ボスを逆順で倒すのには必要ないはず。この縛りは中ボスを倒す順番は自由のようなので、おそらく普通にスポア・スポーンを倒してスーパーミサイルを取ってもレギュレーション違反ではない。ただしリドリーの部屋へ行く過程で別のバグ(Mockballより遥かに難しい)が必要なので、それができるプレイヤーがわざわざスポア・スポーンを倒しにいくことはない。

バグなしでも変更が効く場面もちょっとはある。たとえばゲーム攻略に必須ではないビームの入手順で、本作にはキッククライムという壁蹴りのテクニックがあり、スペイザーやウェイブビームなど、いくらかのアイテムを通常より早めに入手することができる。これは説明書に書かれていない隠し技であるが、バグではなく正規の仕様。
また垂直方向の無限ボムジャンプ技も正規の仕様で、タイトル画面でも見ることができる。
ちなみにこれらを使う程度では突破困難なのがブリンスタの縦の回廊、通称Red towerと呼ばれる地形で、


リッパ(茶色い敵)が左右を往復していて、天井には蓋がしてあり、ねずみ返し状のネック部がある。蓋を破壊しながら敵を避けながら、ネックを抜ける高難度のキッククライムをやり遂げる必要があるが、かなり無理。
できるプレイヤーもいるのは知ってるが、凡人には無理なので画像のようにアイスビームでリッパを凍らせて登るのが普通である。できるならアイスビームは必要ない。
他にもバリアスーツは取らなくてもバグなしでファントゥーンまで行けるはず…
ともかく、多少は攻略順が揺らぐ余地はある。おそらく開発側も高難度・バグなしで行ける箇所は想定していると思われる。

※だから本作はアイスビームなしでもクリアできるらしい。メトロイドパワーボムだけで倒せる。

このように無理をすれば少し自由度が上がるわけだが、こんな高難度のテクが使えないプレイヤーでも本作は自由に感じられる。これは進行に必要な装備がどこにあるかというヒントは乏しいため。
本作には序盤から無数の脇道があり、ゲーム進行に必須ではないミサイルタンク、スーパーミサイルタンク、エネルギータンクが各所にある。パワーボムなどを取れば一気に行ける場所が広がるため、行かなくてもいい過去のエリアを探索し直し、サムスを大きく強化することができる。
というより、それらが脇道なのか正解ルートなのかは初回ではわからない。探しているうちに正しいルートに到達するのである。
つまり『スーパーメトロイド』は正解と言えるルートが限られている一方で、脇道は実際に自由である。

まとめると

  • スーパーメトロイド』は装備で行動範囲が広がるゲームである。
  • 必須の装備を取る順番はほとんど決まっている(不自由)。
  • だがテクニック次第でちょっとだけ変更が効く箇所もある。
  • 必須ではないが、脇道を回ることでサムスを強化し、難易度を下げることができる(自由)。

ここにメトロイドヴァニアの特徴はほとんど完成していたと言える。むしろ「ヴァニア」の部分がなくてもメトロイドヴァニアは定義できるのではないか?

自由度については『月下』のディレクターであり探索型悪魔城の大半をプロデュースしたIGA氏も同じことを言っていた。
【GDC 2014】五十嵐孝司氏が振り返る「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」
>また探索ゲームであるように見せかけて、実はメインは1本道で作られている。所々で枝葉のようなルートを入れているが、その先にはアイテムなどを置くことで得した気分にさせられる。このような枝葉ルートを入れると、探索をしているように感じさせられるのだという。
これはゼルダの伝説を意識して開発された『月下』の特徴であり、スーパーメトロイドを意識したものかはよくわからない。月下の夜想曲も正解ルートの発見にはかなり迷うようになっており、倒さなくていいボスも脇道にいるが、倒すべきボス、進行に必要なアイテムは限られており、順番もほぼ決まっている。
そして月下以降の探索悪魔城もおおむね同じ設計を取っており、ルートによって少々ボスを倒す順序が前後する程度になっている。いずれもスーパーメトロイドに近い。
この点においては、実は初代『メトロイド』のほうが攻略順は自由だった。ゲーム進行に必要な装備は少なく、ボスも2体いるがどっちから倒してもいい。
これはメトロイド全部を見ても一定でなく、『メトロイドプライム』シリーズはスーパーメトロイドと同じで「一本道に脇道がある」仕様だが、初代のリメイクの『ゼロミッション』は非常に自由であるし、メトロイドヴァニアと呼ばれるものも自由なものは多いようだ。
(『ホロウナイト』はルートが無数に広がって驚かされた…まだバッドエンドみたいなエンディングまでしかやれてないのだが)

メトロイドのもう一つの特徴はサムス自身のパワーアップ幅が激しいことだ。特にスーパーメトロイドはインフレが激しく、サムスのエネルギーの初期値は99だが、最強状態だとエネルギータンク14個+リザーブタンク4個の合計1899まで上がる。さらにグラビティスーツで防御力は4倍なので、単純な耐久力だけでも初期状態の76倍以上まで上がっている。攻撃力もプラズマビームやスクリューアタックがあれば多くのザコを一撃で倒せる。
メトロイドヴァニアの特徴として経験値の存在、つまり「レベルを上げてゴリ押しできる」ということ書いているものは多いのだが、パワーアップの規模で言うならスーパーメトロイド月下の夜想曲よりも激しい。プラズマビーム(これもクリアに必須ではない)などヴァルマンウェのようなもんではないか。
だが最短ルートに進むとサムスの能力、とくにエネルギータンクの数がなかなか増えず、難易度は大きく上がる。道に迷うことにより難易度が下がっていくという仕組みなのである。
メトロイドはレベル上げによる強化は取り入れていないが、しかしここに根本的な差があると言えないようにも思える。
そしてこの大幅な成長もゼルダの伝説と同じ質のものだ。
もともとメトロイドゼルダの伝説に似ているのだから、月下がゼルダを意識してたのならメトロイドっぽくなったのは当たり前という気もする。

高難度の悪魔城をベースに間口を広げた『月下の夜想曲』の功績は高く評価されているが、それはメトロイドから間口を広げたわけではない。
もう一度はっきり言っておきたいことなのだが、スーパーメトロイド』はアクションゲームとして『月下』より難しいということはない
特に経験値の存在は象徴的なのだが、月下の夜想曲はレベルのみでの成長幅はそれほどなく、装備や魔導器で強化される部分のほうが大きい。
また『月下』は敵とのレベル差が大きいと経験値が減るので、強引なレベル上げにも限度がある。適正レベルまではすぐ上がるのだが、適正レベルを超えるほどのレベル上げするくらいならアクションの練習をするか、強い装備を探してきたほうが早いだろう。
この経験値についての仕様が見直されているのは、むしろ難易度の非常に高い『悪魔城ドラキュラ サークルオブザムーン』以降である。
どうも、後の悪魔城とも違う月下特有の仕様を見ず、スーパーメトロイドともちゃんと比較せず、経験値だけを強調する動きがよく見られませんか。
…まあ、それは月下以外手に入りにくいせいでしょうね、やっぱり。近いうちに別の記事に書く予定。

強いて悪魔城よりメトロイドのほうがハードルが高いところを挙げるなら、よくタイムアタックを要求してくるというのがある。短時間でクリアするとエンディングでサムスが脱ぐ(脱がないタイトルもある)。
月下にもタイムアタック用の機能はあるが、短時間クリアに対する報酬は用意しておらず、ひとつのセーブデータを続けるだけでベストエンドまで行ける。
対する『スーパーメトロイド』は完全に何回もプレイして時間を縮めるように設計されている。しかし、これもアクションの技術よりもどっちかというと道順を記憶することのほうが重要だろう。
スーパーメトロイドRTAをやるならともかく、ベストエンドを見る程度ならアクションの難易度は大したことはない。
スーパーメトロイドは純粋なアクションゲームというより、知恵と記憶力を求められるRPG寄りのゲームだったと言えるのではないだろうか

最後に

スーパーメトロイドは操作がちょっと変わっている。

横スクロールアクション全般でも珍しいと思うのだが、AがジャンプでXに攻撃がある。Bにダッシュ
マリオなどと違い、スーパーメトロイドダッシュ中にBボタンを離しても速度は維持されるという珍しい特徴があるが、基本的にBのダッシュとXの攻撃は同時にやれない。やる必要のある場面もほとんどないので問題ないが。
ミサイルもセレクトで装備しないと使えないため、ボスはともかくザコ戦でミサイルをいちいち装備して使うのは逆に難しい。
そしてYボタンはミサイルを解除してノーマルビームにするキャンセルボタン。ちょっともったいない使い方をしている。
操作変更は可能だが、斜め撃ちはLRにしか割り振れないので自由ではない。
このちょっと変わった操作体系はボタンの減ったGBAメトロイドフュージョンで一気に洗練され(ダッシュ用のボタンがなくなった)、ボタンの増えたサムスリターンズでも「Yで攻撃、Bでジャンプ」という定番の操作を採用していた。