神殿岸2

2と言っても実質1.5みたいなもの

世界樹の迷宮とウィザードリィ

1月18日で世界樹の迷宮10周年だった。
初代ディレクター新納一哉さんを始め、関係者がお祝いツイートをしたり思い出を語ったりということがあったが、特に何か新展開が発表されたわけではなく、10周年の日は何事もなく過ぎていった。
年内に新世界樹3か世界樹VIは発表されないのか!?
心配しても仕方がない。

このブログに書いたことはないが僕は「ウィザードリィ」が大好きである。大好きだった。
過去形である。
ウィザードリィ」ってタイトルがついてるだけのよくわかんないゲームをやりたいとも思わないし、ダンジョンRPGなら何でも好きなわけではない。(なにしろ女神転生をやったことがない)
僕が好きだったのは僕が面白いと思ったウィザードリィだけだ。だから「ウィザードリィ」もある時期から全くやってない。

ウィザードリィが好きだった流れで世界樹の迷宮を買って、続編もだいたい買ってきたし、だからってウィザードリィと同じものとは考えていない。それはもう初代やった時点で違うと思ってたし、今後迎合してほしいとも思ってない。
というか世界樹やったころにはもう「ウィザードリィ」って名前がついてるだけのゲームのことがだいぶ好きじゃなかったので、もはや情報も仕入れないようにしていたし、それでも数年後にKOTYのwikiで「ウィザードリィ」という文字列を見たときはさすがに我が目を疑った。
それが現時点で最後の「3Dダンジョンのウィザードリィ」らしい。

2000年台以降の全部の「ウィザードリィ」がダメというわけではないというが…やってみたら面白いのもあるのかもしれないが…それをこの手で確かめるのはつらすぎる。
僕にその手を汚せというのか。

ニンテンドーDS世界樹の迷宮」が発売したのは2007年1月18日であるが、初報は2006年6月までさかのぼる。
ファミ通の最初のインタビューは今でも読める。
『世界樹の迷宮』のディレクター新納一哉氏にインタビュー!
このときにディレクターの新納一哉氏が言ってたのが
>そういうときにみんなが言うのは「ふつうのダンジョン作りてぇ!」とか、「ふつうのダンジョンを遊ばせてみたい」っていうことなんですよ。じゃあ一から、3DダンジョンRPGをピュアにもう1回作り直してみたらどうなるんだろうと。『ウィザードリィ』(※2)を、いま我々がイチから考えたら、どういうゲームになるのかなという話をしたところから始まった企画です。

発端にあったのは「普通のダンジョンRPGと位置づけられたウィザードリィだった。「マニアックなRPG」とみなしていないことに注意したい。
とはいえ、このインタビューだけでもキャラクターメイクとパーティ制でサムライがいる。しかも今やオートマップが当たり前なのに、ファミコン時代のウィザードリィみたいな手描きマップ! こりゃ完璧にウィザードリィだわとみんな思った。
当然、ウィザードリィが大好きだった僕もこのゲームを買おうと決めた。たぶんこれが僕の欲しかった「ウィザードリィっぽいゲーム」で間違いないはずだと。僕の好きな要素を受け継いでくれたRPGであろうと。
それから10年か。

世界樹の迷宮ウィザードリィの違いはかなり多く、このインタビューでも既にだいぶ違う点は出ているんだけど、
だからってウィザードリィから全く離れてるわけでもなくて、両方が好きな人もやっぱりいるんですよ。
いまだに勘違いしてる人が多くて、ここで少し比較をしてみたいと思った。

ウィザードリィを目指してない
最初のインタビューは今でも読めるのだが、旧公式サイトに続きがあったことを僕自身最近まで忘れていた。
このインタビューの反響を受けた新納さんのコラムがあったのだ。今はアーカイブでしか読めない。
http://sekaiju.atlus.co.jp/special/column01.htmlのアーカイブ
>インタビューで安易に「ウィザードリィ」という言葉を使ってしまって、後で少し不安になりました。自分は「ウィザードリィ」そのものを作るつもりではなかったからです。

世界樹の迷宮」はもともとウィザードリィを目指したゲームではない。「今ウィザードリィを作る」と「当時のウィザードリィを作る」では、似ているようで隔たりがある。
(この初代公式サイトは1コママンガがあったり、職業の解説があったりと重要な資料だったのだが、発売後にリメイクされて全部読めなくなっちまったのだ!
アーカイブからも見つけ出すことができなかったが、アルケミストの小手「アタノール」の設定は記憶してる限り確か日本版のここだったような…
ただ上記コラムは英語版サイトに翻訳されて存続している)

ウィザードリィの名前をうっかり出してしまう程度に、世界樹の迷宮は完全に「ウィザードリィ」を見据えた構成のゲームとなっている。だからって細部までは合わせていなくて、他のいろんなRPGの影響が見られる。

世界樹の迷宮の基本構造
世界樹の迷宮の基本的なゲーム設計は、初報の通りで古いスタイルのウィザードリィとよく似ている。拠点となる町はひとつ。最初にギルドで冒険者を作成し、パーティを結成、商店でちょっとだけ初期装備を購入し、迷宮の探索を開始する。
戦いの中で、パーティは成長し、どんどん新しい装備を手に入れていく。疲れたら街に帰って回復だ。
最大の特徴はオートマップが不完全で、手描きでマップを作る必要があること。ウィザードリィでも外伝1からオートマップはあったが、それを捨てた世界樹の迷宮のマップは、わざわざ方眼紙でマップ描いたファミコン版の雰囲気に近いものがある。

もしかしたら似てるのはここまでじゃなかろうか。
これだけ似てれば十分ウィザードリィ系のゲームと見なせるとも言えるのだが、それでも相違点が多すぎる。
バトルシステムが全然違うとか、ダメージのインフレ具合がWizというよりロマサガみたいだとか、アイテム集めがハクスラ的でないとか、FM音源ウィザードリィとは関係ないとか、キャラクターがかわいすぎるとか、レベル上限が低いとか、そういうところひとつひとつ比較していっても、世界樹の迷宮はやっぱりウィザードリィじゃねえよなあと。
いまだに世界樹をWizだと思い込んで、けど違うところが多すぎるので「こんなのは俺たちの求めたゲームじゃない!」と勝手に怒ってる人が絡んできたりして、迷惑そのものなのでやめてほしい。
けどやっぱり世界樹の迷宮ウィザードリィ型のダンジョンRPGの面白さを受け継いだゲームでもある。
ダンジョンRPGに求められているものとは何なんであろうか。

・手描きマップについて
ダンジョンRPGは90年台あたりからオートマップ前提になった結果、逆にワープが増えたりして迷宮自体の難易度は上がってることもあったりして、それはそれで良いのかもしれないけど。
手描きマップ前提の世界樹は、迷宮自体はそんなに厳しくない。
しかし世界樹のダンジョンがやさしいのもクリアまでの話で、裏フロアはそうでもないというのも、ウィザードリィ#1のB8に近い感覚であるな。

初代「世界樹の迷宮」はマップ機能を作ってからマップを作ったらしく、機能的にマッピングの難しいフロアがそこそこある。だから結局方眼紙を用意するしかないという問題はあった。しかしやはりマップを描いていく感覚は唯一無二のものだ。自分で描く作業が実は作業ではなく、ゲームの楽しみの一部だったという新納さんの発見は大きかった。
これは別に世界樹の難しい要素ではなく、不便にしたのでもない。
不便さとはまったく逆で、かつてのマッピングの楽しさを残しながら、方眼紙を用意する手間を省いてくれているという、すごく親切な設計だ。不便さを楽しむのではない、普通にゲームの楽しみの部分。
マップの完成形も人それぞれだ。描かなくてもいい場所をついついマッピングしてしまう人もいるし、中には最低限の壁と床だけでなんとかしようとする人もいるとか。
マップ作りの終わりは設定されていない。プレイヤーが満足した瞬間が終わりだ。これはゲームとしては究極の作り方だ。
しかしこれを「義務的にやってた作業を面倒にしただけ」だと思う人には受けが悪いらしい。

・ストーリーについて
世界樹の迷宮のストーリーはかなり一本道である。独特な文体のナレーションはあるが、それだけで進行するわけではなく、NPCも個性的で、サブイベントもそれなりにあり、雰囲気を盛り上げる。
しかしダンジョンRPGにストーリーなど不要という人はどう思ってるんだろう。正直RPGでストーリーがいらないというのはまったく理解できないのであるが…
Wiz5とかストーリーちゃんと読んでなかったら何にも面白くないんじゃないか?
ストーリーが薄いというイメージは、ワードナをとっくに倒してるのにしつこく迷宮に潜り続けた人が勝手に作ったイメージだと思うし、そういうゲームがあってもいいんだけど、世界樹ウィザードリィ自体も決してそこを狙ったゲームではないだろう。

世界樹の迷宮だとダンジョン内にNPCは存在するが、あくまでイベントとして配置されている感じで、WIZ5みたくレアアイテムを隠し持ってるとか、特別な役目を持っていたりはしない。
どちらかというと世界樹NPCは、初期ウィザードリィのメッセージ床のような単純な概念だ。
でもストーリー自体は進行するので、そのうちいなくなったりする。この関係で街に戻らないと話が進まないようなことは多々あり、普通にドラクエみたいというか、ウィザードリィ型特有のぶっきらぼうさはない。
個人的にはストーリーの内容自体は別に文句はないけど、もうちょっと分岐要素というか、イベントの順序で展開が変わるような仕組みを導入してほしいと思う。

ハクスラゲーとしての評価
ハクスラという用語が日本だと急に出てきた感じで、あまり好きじゃないのであるが、要はランダムで装備が出るやつをハクスラと呼んでるようなので、そういうやつ。それが世界樹には無い。
ウィザードリィ型といえば、宝箱からランダムでどんどんいろんな武器がランダムで出てくるやつだ。それがハクスラなんだと。
世界樹は敵ごとに落とす素材が固定である。強い武器が欲しければ、その素材を落とす強い敵を倒す。落としにくい素材があったりはするんだけど、明らかに旧ウィザードリィ型ではない。
いや、ウィザードリィでもこれは5から変わってる。旧ウィザードリィで既にそういう変化が起きていた(最強武器の入手がボスからという設計になった)ことを指摘する人が少ないのは不思議である。

世界樹の迷宮の場合、アイテム入手のランダム性は抑えられているが、商店の品ぞろえを埋めていく方式は完全にウィザードリィそのものだと言ってもいい。
フロアが進むにつれて、手に入る武器も単純に強くなる。これを発見していく快感はウィザードリィを受け継いだものだ。
まったく違うとは断言できないところである。

世界樹の迷宮も新シリーズでは「ハクスラ要素」としてグリモアという付加スキルを採用しているが、やはり「強力なグリモア」を村正とかと同列で語るのは難しいように思う。

・キャラクターの個性が強い
世界樹の迷宮はキャラクターメイク型だが、外見上の個性はかなり強い。魔法使い男が爺さんで固定されていたドラクエ3よりも強い。
たとえば魔法使いに相当する「アルケミスト」という職業がいるが、大きな籠手を身につけた一枚絵だけで「こいつは世界樹アルケミストだ」と強烈にアピールしてくる。しかも外見は4種類から選ぶ方式で、他の外見にする手段はない。
適当に他職の外見をつけたりして、魔法使いだと脳内で勝手に切り替えることはできないのだ。
「籠手つけたアルケミスト格好いいじゃないか」と、この世界観を受け入れられなければ、世界樹の迷宮はたぶんそんなに楽しくはないんではなかろうか。
「魔法」の存在しない世界だという「世界樹の迷宮」には、こういうデザインが出てくるバックストーリーもあり、ゲーム開始時点で世界観を押し付けていると言ってもいい。自作キャラクターだけど、背景は既に持っている。
まだ初代はプレーンさを目指して控えめなデザインにしているということだが、III以降はキャラクターを押し出す方向へと動いている。デザイナーの考えもあるようだ。
言うまでもなく、このキャラクターの強さが世界樹の評価に直接つながってる。これを否定するのは論外である。
(これを「押し付け」と定義するなら、顔グラフィックのないウィザードリィにもある。外見がゲーム内に出ないとはいえノームやドワーフの外見はかなりイメージを固定されているし、魔法戦士を作りたいと思ったら「侍」にするしかない。そういう意味では不自由だ。
「俺は能力で選んでドワーフだけど普通の人類のつもり」という脳内設定をする人もいるらしいが、そういうのも僕には理解できない…)

新納一哉さんのこと
世界樹の迷宮初代ディレクター新納一哉さんだが、この人はそんなにウィザードリィに特化してる人ではないようだ。
(他の場所での発言によると、新納さんはそもそも初代「ドラゴンクエスト」への思い入れが非常に強いらしい。彼の手掛けた「ドラゴンクエストビルダーズ」はファミコンドラクエ1へのリスペクトが詰め込まれた傑作だった)

世界樹発売後のインタビューでもウィザードリィに対する思い入れが強いことや、ダンジョンRPGのプレイ経験が豊富なことはわかるのだが…
インタビュー2ページ目
>――プレイして気づいたんですが、カニ歩きはないんですか?
>新納:
>ありえないんですが、僕が知らなかったんですよ…スタッフはみんな知っていたのに誰もいってくれなかった(笑)。あとで問いただしてみると「このゲー厶でカニ歩きはありえないと思ったんで言う意味ないと思ってました」と。

確かにカニ歩きは初期のウィザードリィにはないが、しかし最初のファミ通インタビューで名前が出てるダンジョンマスター」にはカニ歩きはあるのだ。ダンマスは振り向く時間も惜しい場面があり、カニ歩きは時に重要なテクニックとなる。
というかSFCの「ウィザードリィV」にもあるぞ。これで終盤のイベントを飛ばせるバグがある結構ヤバいやつ。
割とカニ歩きを採用しないダンジョンRPGがあるのは確かなのだが、まあ知らないのは実際「ありえない」と思う。ここから言えるのは、新納さんはある時期以降のダンジョンRPGへの造詣は決して深くないということだ。
(どっちかというとウィザードリィへの思い入れが強いのはII以降のディレクターを引き継いだ小森成雄さんのほうに見える。
すっかりWIZ色の薄くなった最近のインタビューでもWizardryの名前を出し、種族制も採用したし、あとIIの最終フロアを玄室連続マップにしたのはモロである。不評だったのか玄室採用したのはこのIIと新2だけだが…
小森さんがディレクターを外れたIVだけ刀が最強武器じゃなくなってるというのも指摘できる)

カニ歩きがないのは新納さんひとりの責任ではないのだが、ダンジョン内で敵の姿が見えたり、壁を見ないと見つからない仕掛けがあったりと、ダンジョンマスター寄りの要素もある世界樹にはカニ歩きがあったほうが良かったように思う。まして世界樹IのLRはあまり使わないマップの切り替えボタン。
ということで世界樹IIではあっさり実装されていた。新1では向きによって行動の変わるfoeも登場し、カニ歩きでの回避を前提としている。

・ムラマサ関係
確実に世界樹ウィザードリィだと思うのは、「刀が最強武器」という原理主義についてだ。
ただし、素材から街で作るという世界観的な理由からか、村正のような「銘」のある刀がない。大半の世界樹シリーズの最強武器は「天羽々斬」だ。
これは実在するとされる刀剣であり、実物は片刃とのことであるが、時代的に日本刀ではないと思う。
もうちょっと突っ込むと、FF5の「あめのむらくも」を意識してる気がする。日本刀の頂点なのに日本刀じゃない名前をチョイスという。また世界樹Vの天羽々斬はなぜか高速移動というスキルがついているが、これって初期FFのヘイストついてたマサムネじゃなかろうか。
実際のところ本国のウィザードリィでもムラマサ(Murasama)が最強に位置するのはごく初期の作品だけであり、村正が強いイメージは国産ウィザードリィが育てたところがあり(さらに言うとマサムネからフィードバックされてる可能性さえある。遠藤雅伸がFF好きだし)、この原理主義こそ国産RPGの系譜という言い方もできる。

「ダンジョンRPG」という、凝り固まってたジャンルのテンプレにだいぶ乗っかりながらも、「普通のダンジョンRPG」を目指してもいるのでストーリーがあったり世界観を押し付けてきたりもするのが「世界樹の迷宮」だったと考えている。
ダメージのインフレとかパーティの人数が足りない感覚とかはちょっと普通じゃない気もするが、ともかく世界樹の迷宮は最初からそういうゲームのままシリーズを続けてくることに成功した。
もはやダンジョンRPGの凝り固まったイメージも崩壊してきた昨今であるが、たぶんその契機になっている「世界樹の迷宮」はまだまだ続いてほしいと思うというところでこの記事を締めくくる。