神殿岸2

2と言っても実質1.5みたいなもの

世界最初のコンピュータRPG…でもないけど『Akalabeth』

『Akalabeth』(アカラベス)は「ウルティマ」のリチャード・ギャリオットウルティマより前に制作した作品だ。後年に「Ultima 0」という別名も与えられており、プロトタイプ的な作品としてよく紹介されている。
販売は1979年と言われ、ウィザードリィより古いウルティマより古いローグよりもっと古い、歴史的にも重要な作品である。
なお「世界最初のコンピュータRPG」ではない。非商用のコンピューターRPGは遅くとも75年、「商用のRPG」でも78年には存在していたことがわかっており、最初ではない。
もっとも、78年の商用RPG「BENEATH APPLE MANOR」(ビニース・アップル・マナー)を紹介している日本語の文章がめったにないのに比べて、Akalabethを紹介している文献は80年代から現在まで結構あるのだが、その割に最初のRPGとして紹介しているものも、ほとんどない。アカラベスを知ってるような人からすると、「なんかこれより古いものはあったらしい」という漠然とした認識は共有されていたのかもしれない?
(アカラベスを認識せず、ウィザードリィウルティマ、そしてローグを誤って最初のRPGとしている文章は割と見かける)
もっとも本作はウルティマほど広く移植されておらず、AppleII版も稀少化しているという。
日本でも歴史的な作品として存在は知られているものの、内容に触れられている割合の低さから考えても、実際にプレイした人間はかなり少なかったと思われる。多摩豊の著書「次世代RPGはこーなる!」によると国内にも少し輸入されていたらしいのだが、具体的にどんなゲームだったかあまり書かれていない。

日本ではだいぶ後の99年にThe Genesis of Ultimaという本に収録されていたらしいが、現在はこれも希少になっている。
しかし現在はGOG.comで、DOSバージョンを無料で入手できる。
Akalabeth: World of Doom
だが注意があり、正規版に見えるものはバグっていてクリア不能のバージョンである。付属品扱いでダウンロードできる1998年バージョンを選ぶこと。
詳しいことは後述するが、この左側のバージョンはクリアできないだけでなくゲーム内容自体も違う。98年版を選ぶことを強く推奨する。

情報元:師走冬也のホームページ 別館
98年版の操作も日本語で掲載。

さて『Akalabeth』はウルティマといっしょくたに語られていることが多く、「ウルティマの原型になってる」以上の説明はあまりされていない。
確かに本作はウルティマの特徴であるドラクエ的2D俯瞰マップの原型となっており、そして80年代ウルティマの特徴である地下の3Dダンジョンも実装しており、ターン制の移動・戦闘システム、食料システムもウルティマ1とそっくり。
だが実際にプレイしてみると、コンセプトの異なる点も見出せる。

  • おおざっぱなゲーム内容

ゲームの目的は単純で、主人公が城へ行くと大仰な言葉と共に倒すモンスターを指定される。指定されたモンスターをダンジョンで見つけて、倒し、城に報告する。すると次のモンスターを指定される。
これを繰り返し、一番強いモンスターを倒して報告すればクリアである。モンスターを倒す以外のクエストは存在しないが、ここに一応のストーリー性がある。あるが、かなり薄い。後発のウィザードリィよりはだいぶ薄いと言える。
説明書にはモンデインがどうのこうのとバックストーリーが載っているのだが、ゲームの中身にあまり関係ない。

  • 2DRPGとしての部分

ウルティマというと初期から2Dフィールドのイメージが強いが(実際は80年代ウルティマは3Dダンジョンが共存しているが)、アカラベスは明らかに3Dダンジョンのほうに傾倒している。
まず2Dフィールド自体19×19の狭い範囲しかない(マニュアルなどに20×20と書いてあるが、これはマップ外壁を数えているようだ)。
その視界も恐ろしく狭い。

この画面だけ見てもわかりにくいが、

このように自分の周囲1マスの範囲しか見えておらず、1マス離れた壁すらも見えていない。
2D型RPGの定型である「グリッド単位の地形」「俯瞰視点」「常に画面の上が北」「キー操作での簡単な移動」は本作で早くも完成しているものの、狭さという一点でウルティマドラクエのそれとはまったく印象が異なる。むしろ地上のほうがダンジョンより視界が悪い。
プレイヤーはこの狭いマップで食料が尽きないよう注意しながら、どこにあるとも知れない城を探さねばならない。このゲームは地上マップ自体が既に迷宮のようなものとなっている。
つまり城を探すこと自体がこのゲームの課題となっている。本作の主な舞台はダンジョンなのだが、地上のほうが食料の減りも早く、広大な世界の演出となっているわけである。
食料は街で購入するが、お金はダンジョンで稼ぐしかない。城を見つける前に迷宮に入って準備してもいいだろう。

  • ダンジョンRPGである。

本作は「商用の3Dダンジョン型コンピューターRPG」としては世界最初の作品らしい。そして戦闘も宝探しも、3Dダンジョン内のみで発生する。

かなり簡素なグラフィックではあるものの、3Dダンジョンにモンスターが直接描画されるダンジョンマスター様式の画面。これはウルティマにもそのまま受け継がれている。
…念のため言うけど、ウルティマも本作もリアルタイム戦闘ではない。今でいうローグライクなどと同じターン制で、移動も攻撃も1ターン。複数のモンスターに囲まれると連続攻撃を受けて危険なので、位置取りが重要となる。

  • 自動生成型RPGである。

そして言及してる人が非常に少ないのだが、このゲームはローグライクとも類似点のある自動生成型のRPGである。地上のマップもダンジョンのマップも敵の配置も全てゲーム開始時にランダムで生成される

さらに面白いことに、本作はゲーム開始時にラッキーナンバーを入力する。
これは説明書に「乱数のシードになる」と書いてあり、「同じ数字を打ち込めば同じマップ、同じダンジョン、同じモンスターになる」ことが明記されている。
一度生成されたダンジョンは最後まで固定され、ダンジョンを出て入り直しても、電源を切ってやり直してもラッキーナンバーさえ一致していれば同じ構造。つまり、ひとつのラッキーナンバーに集中し、丁寧にマッピングして徹底攻略していくこともできるし、ナンバーを変えて何度も新しい冒険を楽しむこともできる。ランダムな遊び方と、非ランダムな遊び方の両方ができるわけである。
もっとも、ランダムの質自体はそれほど高くはない。1フロアは9×9と狭く、碁盤目のマップを基本にドアや壁、モンスターが適当に配置されていく程度となっている。
ただランダムゆえにモンスターの配置が偏りやすく、しばしばフロアを下りた直後に多数のモンスターに襲われるような激戦区が発生する。こういうのを乗り越えるのもまた本作の楽しみと言えるだろう。
ただし98年版の問題として、階段まで徒歩で行けないマップが出ることがあり(例としてラッキーナンバー0のマップのB1。ナンバーの代わりに文字を打ち込んでも同じマップになる)、魔法を使えないFighterは詰む。
そうでなくてもB1の出来で序盤の難易度は大きく変わるので、ダメだと思ったら別のプレイに切り替えてもいいだろう。

ちなみに今回遊んだナンバー10のB1はこんな感じである。宝箱が入口すぐにあり(宝箱はフロアを移動すると復活する)、モンスターもシーフとスケルトンがすぐ出てくるため非常に稼ぎやすいマップとなっている。
攻略のコツをつかむまでは、方眼紙でのマッピングも重要になる。全フロア描く必要まではないが、同じラッキーナンバーを繰り返し攻略するならある程度マップも作っておきたい。
なお自動生成らしくダンジョンも無限に続く。ラスボス相当のモンスターであるBarlogはB9に登場するが、さらに深い階層へ進むことも可能で、Barlog自体も何度でも登場する。

とりあえず101階までは見た。101階のバルログはドーピング技でSTRを1000にしても一撃で倒せないほど強いぞ!

レベルアップの概念はなく、HP以外のパラメータはドーピング技を使わない限りわずかしか上昇しないのだが、別に使わなくても初期値が20前後あるキャラクターなら最高難度でも普通にクリア可能であることを確認した。逆に初期値の低いキャラクターはHPを上げることもままならず普通に詰む。
その初期値も完全ランダムであるが、これはキーひとつで振り直せるので最初から好みの強さのキャラクターを作るとよい。

このようにアカラベス全体に流れるランダム性は、ウルティマと違う設計である。
実はウルティマ1もダンジョンマップのみゲーム開始時にランダムで生成されるのだが、アカラベスのほうがむしろ複雑な迷宮を生成する。一方で宝箱やモンスターの配置はアカラベスと違い、入るたびにランダムで変わる。ウルティマはアカラベスとランダム化している範囲が違っており、ラッキーナンバーもないので制御できない。
アカラベスはセーブもない短いゲームだからこそ、何度も遊べるようにしている。あるいはセーブがない割には長いゲームであるから、同じラッキーナンバーで繰り返し挑戦できるようになっているのだろう。
このゲームは原始的な作品でありながら、非常にいろんなことが考えられている。

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歴史的価値がどうのこうと考えず、とりあえずやってみても新鮮に楽しめるんじゃないかと思う。

ちなみに歴史的な話をすると、アカラベスの発表はローグより先らしいのだが、そもそも自動生成RPG自体は既に述べた「ビニース・アップル・マナー」がいきなりやっており、3Dダンジョンの自動生成もAkalabethの3Dダンジョンに影響を与えた「ESCAPE!」のさらに前身である「MAZE GAME」が先にやっていた。
Akalabethは間違いなく当時として革新的なゲームであり、さまざまなパラメータが大雑把ながら、現在やっても目新しい要素さえあるのだが、商用に限定してさえ先駆者が結構いたもんである…

  • 遊び方補足

GOG.comで配布されているマニュアルはappleII版のスキャンであり、98年版はいくつかのキー操作が異なる。タイトル画面で確認可能。

だが一部アイテムの使用時など、ここに書いてないコマンドが若干数ある。
特にゲームからの質問に対しては「Y」でイエス。これがないとキャラクター作成が終わらず、ゲームを始めることもできない。
そう難しいわけではないが、コマンドを試して探すこと自体もこのゲームの一部なのだろう。

さらに98年版は追加機能があり、

Q:セーブ(地上のみ)
CTRL+R:セーブデータから再開
CTRL+E:ゲーム終了
CTRL+Q:ゲーム終了

もともとはセーブなしのゲームだが、存在は覚えておいてもいいだろう。

ところで…

最後に長めの補足を書く。既に述べた通りここまでの記述はGOG.comで入手できる「Akalabeth 1998」のものである。もうひとつのバージョンは何なのか?

「Akalabeth 1998」は、98年の「Ultima Collection」のために開発されたバージョンで、オリジナルとは幾つかの違いがある。海外サイトの解説や動画などで調べたが、
98年版の変更点は以下のようなものがある

  • 文字や迷宮に白以外のカラーが使われる
  • セーブ機能がある
  • ウルティマシリーズのBGMが流れる
  • タイトル画面でストーリーが表示される
  • タイトル画面にグラフィックがない
  • 食料とHPの小数点以下が表示されない
  • 迷宮内で方角がわかる
  • ラッキーナンバーに応じて、全てのダンジョンが同じ構造になる
  • エンディング後に移植チームの発言集が読める

他にもアミュレットの仕様などが違うらしいが、ここに上げた要素だけ見ても忠実な移植ではないことがわかる。
とくに「全てのダンジョンが同じ構造になる」というのは詳しく説明をするが、
本作の地上マップに幾つも存在するダンジョンだが、apple II版ではそれぞれ違うものが生成されていたようである。
同じラッキーナンバーの、同じ位置にあるダンジョンなら同じになるが、
apple II版は同じラッキーナンバーでも違う位置のダンジョンは違うものになる、ようである。
98年版のダンジョンはラッキーナンバーによる変化のみであり、マップのどの位置にあるダンジョンに入っても敵、壁、宝箱の配置は全て同じになる。つまり地上マップにダンジョンが複数ある意味が乏しくなっている。詰みが普通に起きるのもそのせいと思われる。オリジナルなら無理なダンジョンは無視して、別のダンジョンに行くことができたはずだ。
逆に、オリジナルは宝箱の中身もゲーム開始時に決定・固定されていたのに対し、98年版は同じ位置の宝箱でも開けるたびに違うものが入っており、宝箱の位置さえ覚えればMagic amuletを集めるのが簡単になっている。意図的に仕様変更されているのかもしれない。
98年版はオリジナルと内容は異なるが、リチャード・ギャリオット自身も関わった公式な移植なのは間違いなく、動作も軽快そのものだ。現状まともにプレイできる唯一のバージョンであもるし、これをプレイするのは適切だろう。

問題は、GOG.comにメインバージョンのように配置されているクリアできないほうだ。これはappleII版ではなく、1996年にFinire Dragonという人物がDOS用に非公式に開発し、インターネットで発表したバージョンらしい。

  • カラーは全編白黒
  • セーブ機能がない
  • 食料とHPの小数点以下が表示される
  • ラッキーナンバーがまともに機能しない
  • ダンジョンの構造がフロアを上下するたびに変わる
  • モンスターを倒してもクエストが達成されない(要するにクリアできない)
  • やっぱりタイトル画面のグラフィックがない

ラッキーナンバーもダンジョンの位置も関係なく、ダンジョンに入るたびに違うダンジョンが生成される。それどころか梯子を下りてすぐ登っても違うフロアになる。つまりこのバージョンはランダムシードの意味をほぼ切り捨てており(※)、完全にローグライク化してしまっている。
フロアを移動するたびに変化する迷宮は、むしろ「不思議のダンジョン」と呼んだほうがニュアンスが近い気がする。マッピングも無意味でダンジョンから脱出するのも一苦労だ。
※ただし乱数固定は通用する。ラッキーナンバー入力後、キャラメイク時から乱数の消費量を合わせれば同じマップが出るっぽい。

どういう経緯でこれが公式なものとして配信されているのかは、わからない。
ただかなり有名なバージョンらしく、操作も98年版と共通している…
Ultima 0」という別名を始めて名乗ったのも、98年版ではなくこちらのバージョンなんだという。

このバージョンはQBasicで作成されており、インストールしたフォルダの中にソースのBASファイルがある。
QBasicの使い方を知らないのでやり方はわからないが、バグの位置は特定されており、プログラムの修正自体は難しくないようだ。
参考:https://tcrf.net/Akalabeth:_World_of_Doom_(DOS,_1996)
しかし、この部分を直しても不思議のダンジョン化していることに違いはない。わざわざ直してまで遊ぶ価値があるバージョンかは疑問が残る。あるいは不思議のダンジョンとして遊ぶなら、クリアできるかどうかはささいな問題かもしれないが。