神殿岸2

2と言っても実質1.5みたいなもの

2020年にセブンスドラゴン1作目の話

アトラス退社後の新納一哉が再び表舞台に現れた一作目が「セブンスドラゴン」なのだが、僕は長いことやってなくて、今年になってようやく通しでクリアしたのだった。
もちろん本作の評価は当時既に出そろっており、個人的にもフロワロが多いとかエンカウントが多いとか、だいたい言われてる通りだとは思った。
2015年の「III」をもって全4作で完結となったセブンスドラゴンの1作目は、何が問題で何が評価されたのか。
後の話を先に言うと、この1作目のほとんど全ての問題点は続編であり番外編である「2020」で改善しており、以降の作品は「2020」からの直接の続編になっている。
だから振り返ると1作目だけ違うゲーム設計になっており、孤高の一作となってしまったのである。

セブンスドラゴン」はまだ「世界樹の迷宮」の影響が強く残る作品で、主要スタッフは新納一哉のほか音楽に古代祐三が共通している。
(他にもデザイナーなどに共通のスタッフがいるらしいのが、詳しく調べてない)
別に世界樹のスタッフまるごと移籍というわけはないのだが、実際のゲーム設計、グラフィック、世界観にストーリーまでだいぶ世界樹の成分が強く、新納さんの寄与した割合が大きいのだろう。特にキャラクターの作成・育成に関わるつくりは世界樹そのままと言っていい。レベルを上げるとSPが手に入りスキルを習得できるというあのシステム。
違うのは「セブンスドラゴン」がドラゴンクエストのようなワールドマップのある2D型RPGであること。それもドラクエ3に似ており、攻略の自由度の高いものとなっている。2000年代には珍しいタイプのRPGじゃないだろうか。

まずはフロワロの話をしようか。
本作の舞台となる世界「エデン」の全域にはフロワロという毒花が咲き乱れ、人類をおびやかしている。
フロワロを踏むとダメージを受けるが潰すことができて、わずかに経験値がもらえるなどささやかな特典がある。プチプチを潰す感覚で世界中のフロワロを潰していくのはゲームの楽しみ方のひとつとして提示されているわけだが、これがそう簡単でない。
というか、潰すと消えるのはワールドマップのフロワロだけで、ダンジョンのフロワロはマップを切り替えるだけで即復活する。そのダンジョンのボスを倒すかドラゴンを全滅させるとフロワロは消えるが、それまではいくら潰してもなくならない。単に世界中がダメージ床で覆われていると思って問題ない

さてフロワロを潰す・通過する際の課題だが、

1.ダメージが割と大きい。HPが上がると受けるダメージも増える。(死亡はしない)

2.フロワロと関係なくエンカウント率が高い

このふたつが理由で、それなりに苦行である。ダメージを受けながら敵の相手をするのは大変なので、一定歩数ごとに回復をするかフロワロのダメージ自体を減らすか、エンカウントそのものを消すしかない。
※サブクエストを進めると世界樹のようにエンカウントを事前に察知できるようになるが、これはかなり後まで取れない可能性がある。というかこの程度の機能は制限しないで最初から使えるようにしてくれ。

対策となるスキルはあるのだが、

3.フロワロのダメージを減らすアイテムはあるが効果が低い。ノーダメージにするスキルはナイトしか持っていない。

4.エンカウントを減らすアイテムはあるが、ゼロにできるのはサムライだけ。

エンカウントは我慢できるが、ダメージはナイトがいないとどうしようもない。
この時点で自由なパーティ構成がかなり制限を受ける気がする。ナイトなしでも進めなくはないのだが、大量の回復など代わりの手段が要求されるだろう。
しかも、

5.スキルは一定歩数で切れるが、効果が切れたことを教えてくれない

ドラクエならトヘロスが切れたら教えてくれるし、トラマナは歩数制限ないし、トラマナが切れたらダメージ受けたエフェクト入るから見逃すことはありえないが、このゲームはトヘロストラマナも一定歩数でいきなり切れるし、フロワロのダメージは受けてるのか受けてないのか見た目でわからん仕様。
なぜファミコンドラクエでできることができてないのか。
エンカウントしまくる中いちいち歩数を数えるか、メニュー画面をこまめに開いて効果が継続しているのを確認するか(残り歩数は表示されない)、それともHP1で構わず突き進むか…好きな方法を選ぶしかない。

とはいえフロワロはあくまでこのゲームの一要素で、これだけでゲームの評価が決まるものではない。フロワロばかりを槍玉に上げるのは正しいとは言えない。
これに大量エンカウントにトヘロストラマナの仕様が重なることで不穏な雰囲気が出てきているのだが…もう少し別方面の話題を掘り下げていこう。

ゲームバランスについて言うと、難易度は初代世界樹より低いと思われる。チビキャラが高速で画面を飛び回る本作の戦闘演出は非常に優れており、テンポも良い。7つの職業に合計28種類の外見があり、その全部のチビキャラが多彩なアクションが用意されている。
また職業バランスにも世界樹の直接の反省が見えて、チェイスや構えなど世界樹と同じような効果のスキルが使いやすくなっていたり、全体攻撃が世界樹より低コスト・高威力だったりと、ザコ戦はおおむねやりやすい。

ただ、エンカウントの多さに反比例するように実入りは少なめ。敵はお金の代わりに素材アイテムを落とす世界樹と同じ方式だが、世界樹と違い商店の品揃えは最初から決まっており、素材を売っても中途半端にしか新商品が増えない。換金専用素材もかなり多い。お金自体もあまりがちで、アイテム欄もすぐいっぱいになる。
さらに敵とのレベル差がつくと経験値も少なくなる。実入りの少ないザコの相手は面倒なだけなので、アイテムやスキルでエンカウント減らしっぱなしで進むことになりがち。
ただし、一部のザコ敵の使う混乱と魅了が強すぎる。このゲームの混乱は前衛がガチで味方に殴ってきて一撃で半壊するほどの威力があり、しかも混乱・魅了に対する耐性アイテムやスキルがほとんどない。
対抗手段は魅了を使う敵を先制攻撃で全滅させるか、ファイターのスキルで先に自ら出血しておくなどである。(複数バステは優先度の高いものだけ残る世界樹と同じ仕様。出血していれば混乱しない)
どういうことかというと、ラスダンに魅了を使うザコが出るが、これはラスボスより遥かに脅威である。

混乱を除けば世界樹より全体的に簡単になっており、これがエンカウントの高さ、実入りの少なさと合わさることでモチベーションを削ってくるわけだが、ボスキャラ・シンボルエンカウントもそこまで強くはないバランスになっている。
そのぶん、シンボルエンカウントは倒しまくらなきゃならんのである。「エデン」全域には777匹のシンボルエンカウントのドラゴンがおり、小さめのダンジョンでも10匹以上は余裕で配置されている。


この序盤の小迷宮の1マップだけでも7匹だ。
これらシンボルのドラゴンはロマサガみたいに高速で走り回るため、世界樹と違って完全な回避は難しい。
世界樹初代には回避できない・そんなに強くないFOEが多いことは以前書いたが、セブンスドラゴンはもう一歩進んで大量のドラゴンを片っ端から倒しまくることも想定したバランスとなっている。
これはゲームクリアには必須ではないのだが、ある要素の解禁に必要となる。ラスボスまでなら倒す必要がないドラゴンもいるし、序盤のダンジョンの取り残した弱小ドラゴンをわざわざ全滅させにいくということもありえる。
普段はランダムエンカウントの高さに苦しめられる本作だが、「ドラゴンを倒すことのみを目的としたドラゴン退治」が必要になったりして、逆にドラゴンとばっかり戦ってザコと全く会わないということもよく起きる。竜退治はもう飽きた。
世界樹から難易度を下げるなら、もう少しやり方はあったのではないだろうか。

ゲームシステムから離れてシナリオ面の話をするなら、メインのシナリオ自体はエデンからドラゴンを駆逐するというシンプルだが明確なものである。
船の手に入る中盤以降はドラクエ3のように自由度の高いものとなり、世界中に様々な寄り道が用意されているが、竜退治という目的もはっきりしているので迷うことは起きにくい。
逆にシナリオの進行をすっとばして寄り道すると強い武器が手に入ったり、いきなり強い敵のいるエリアに突っ込んで全滅させられたりもする。これは古いRPGの設計を狙って再現したものと思われ、実際うまくいっている。
ドラゴン退治という最終目的はシンプルだが、人類の結束を目指すシナリオには起伏も多く、ゲーム後半には大きな山場が襲ってくる。
もっともシナリオの根底にある世界観について、これまた世界樹の焼き直しっぽいことにやや問題は感じる。山場で世界樹5層みたいなのが出てきて衝撃よりも結局そうなるのかという。まあ「セブンスドラゴン」1作目において、過去の出来事は本筋にそれほど影響しないのだが。
(ところで世界樹側も「真龍の剣」という名称にセブンスドラゴンとの類似が見られる。あちらのドラゴンも世界の外から来た侵略者なのだろうか?)

シナリオ面の問題は主にサブシナリオのほうにある。セブンスドラゴンは自由度の高いゲームであり、本筋と関係ない多数のサブクエストがそれを賑わす設計だが、それがはっきり言って出来がよくない。
具体的には「どうでもいい住民のどうでもいい悩みを解決して、報酬にどうでもいいアイテムをもらえる」ということが多い。有名な「鳥の羽を100個集めるクエスト」は典型的だが、100個集める難易度ではなく「名前も知らんハントマンの羽毛布団の材料を集める」という行為自体が厳しい。
ドラゴン打倒という明確な目的がある中で何でこんなことをやってるのか。世界の危機やぞ
こうした半ばギャグのようなクエストがシリアスな世界観の気分を緩和するのではなく、単に噛み合ってない印象がある。真面目なクエストも多いけど真面目だと思ったら締めにドラえもんのセリフがそのまま出てきたときはどうしようかと。
どうしたらいいかというと、そういうくだらんクエストは無視する自由があるのだが、たまにエンカウント予測のような重要なスキルがもらえたりするので完全無視もできない…
うん、いや終わってみると2大ギャグクエストである食通爺さんとハノイのことはそんなに嫌いじゃないという微妙な線ではあったんだけど。
どっちかというとギャグ要素のないネバンプレスやアイゼンのサブクエストの終わらせ方のほうが納得いってない。

エストの内容と別に、仕様そのものにも大いなる問題がある。全てのクエストの流れは以下の順序を要求する。

1.依頼人を発見してクエストが登録される

2.登録されたクエストをクエストオフィスで受ける

3.依頼人に改めて話を聞く

4.ダンジョンなどで仕事を達成する

5.依頼人に報告する

6.クエストオフィスで報酬を受け取る

全てのサブクエストで、実に6つの過程が必要になる。

エストオフィスは全ての町にあるわけでなく、依頼人も辺境にいることもあり、移動量が半端ではない。何でわざわざ報酬を受け取りに街に戻らなきゃならんのか、というか辺境の依頼人はどうやってクエストオフィスに報酬を預けてるんだ。
最初に依頼人を見つけた時点でクエスト受けたことにできないのか。報酬を直接もらうんじゃダメなのか。
この無駄に多い移動に伴い、移動手段自体の問題も立ち上がってくる。このゲームにはルーラに相当する便利なワープ手段がなく、代わりに各地にポータルという転送装置があるのだが、ポータルからやたら遠い地域、ポータル自体ないエリアもあり、そしてここでもまたエンカウント量とフロワロの密度が押し寄せてくる。
受けられるクエストも3つまで。世界樹にもあった多くのクエストと異なり、発生した時点では依頼のアイテムを手に入れる手段がないなど、すぐに解決できないクエストがかなりある。
だから依頼人を見つけても達成できないクエストは受けることもなく放置することになる。どのクエストから達成できるようになるかはわからないので、頭の片隅に留めながらゲームを進めるしかない。

こんなふうに明確な問題の多いゲームだったが、自由度の高いゲーム設計そのものは成功していると思える。非常にもったいない。受注から解決までに時間のかかるサブクエストも、本来はこの自由度があって生きてくるものだろうし、海に沈んだアイテムのようなオープンワールド的な遊びも用意されている。
サブシナリオがもう少し楽しければ。エンカウントがもう少しマシなら。ドラゴンが無駄に多くなければ。フロワロがもうちょっとゆるければ。トヘロストラマナの性能がもう少し良ければ。アイテム所持数の制限がもう少し多ければ。アイテム欄を圧迫する素材アイテムにもう少し価値があれば。
実際ひとつひとつは槍玉に上げるほどひどい要素でもないのだが、これら全てはゲーム全編を通しての問題であり、全てが連動して襲い掛かってくる。
セブンスドラゴン」は、洗練された戦闘演出がチャラになるくらいには小さなストレスが積もり積もった、疲れるゲームだ。
初代「世界樹の迷宮」もかなり粗削りなゲームだったが、比べるとこのセブンスドラゴンのほうがもう少し、だいぶ粗い感じがする。
わかりやすい問題点のほとんど全てが2020で改善しているのも当然というべきか、それができるのなら1作目が発売する前になんとかできなかったのか。惜しすぎる。
「2020」では問題点の改善とともにゲーム設計が変化し、評価は上がったが初代の自由度の高さは失われてしまった。その後新納さんも抜けたセブンスドラゴンシリーズは初代の仕様に回帰することもなく、一作目は孤高の一作となってしまったのである。
あるいは、シリーズが完結したとされる現在ならば「新セブンスドラゴン」となる可能性も残されているのかもしれない。