神殿岸2

2と言っても実質1.5みたいなもの

ストーリーオブリルガミンをレトロフリークで動かした話

SFCの末期、99年にNINTENDO POWERの書き換え専用で出たウィザードリィ3本セット、正式タイトルは「ウィザードリィⅠ・Ⅱ・Ⅲ 〜Story of Llylgamyn〜」。
カタカナだとストーリーオブリルガミン。ニンテンドウパワー版を略してNP版とも書く。
結構なプレミアソフトである。VC化もされていないし、版権問題が当分どうしようもなさそうであるし、書き換え専用だから出回った本数も多くなさそうだ。
そんな本作をレトロフリークで動かした報告は現状かなり少ないため、実際にどうなるかをここに記録する。

なおレトロフリークは2017年6月購入、購入時点でV2.6だった。
カセットは2001年ごろローソン店頭で書き換えた正規品だが、正確な時期は覚えてない。

前提として、SFメモリカセット(NP書き換え専用カセット)について、レトロフリーク側が公式に非対応としている。
動作に問題のあるゲームリスト
実際はメモリカセットの全容量使い切るタイプのソフトは読めることが多いようである。ただし正常に認識しない確率も高く、認識してもタイトル名がUnknownになる。

今回は「UnknownGame_7C5A7F82」という名前で認識された。

見えないオーク

ゲームの挙動自体はおおむね正常。しかしB1のモンスターの確定グラフィックが表示されない。
ROMの複製自体に失敗しているのか、複製はできているがちゃんと動いてない状態なのかは定かでないが、ネット上で同一の報告が少数あったので共通の問題のようだ。

不確定グラフィックは問題なし。

マーフィーズゴーストは普通に出た。さらにB2以降のレベル1プリーストなどもグラフィックが出る。全モンスター検証していないが、どうやらデータ上で#1の№10までのモンスターと、その色違い(終盤にも出るメイジやシーフ系。またオークなどIIIに登場する同グラフィックのモンスター)が表示されないのだと考えられる。
すごく中途半端な範囲だが、不正な機器に対するプロテクトのようなものが働いているのかもしれない。パッチやチートで対応できるかは知らない。

ゲーム自体はIのエンディングまで到達可能であることは確認できた。もしかしたら気づいてないだけで他にも問題が起きてるのかもしれないが、僕はエンディングまで特に気づくことはなかった。
一部のモンスターのグラフィックがないことに我慢できるなら、別にレトロフリークで動かしてしまっても良いかと思われる。
IIとIIIの確認についてはパス。

念のため正規のスーファミで動かした場合、オークが正常に映ることは確認している。当時品とはいえロムが壊れてるわけではなかろう。
だがカセットもハードも古いので、正しいSFCでも起動成功率は低い。それに電池が切れてるみたいでセーブデータも壊れてる…
レトロフリークも挙動だの権利だのエミュレーターのソースだのうさんくさいところの多い機械だが、ある程度動いてくれたこと自体は良かったこととしてここに書いておきたい。
かくしてレトロフリークでの起動報告はおしまい。

NP版そのものについての話もしたい。
※以下にもレトロフリークで撮影した画像を使用していますが、正規のSFCでもある程度比較しており、一部モンスターのグラフィック以外に再現性の問題は確認していません。実機のほうではエンディングまで調べたわけではないことも白状しておきますが…。

正直に言うけど、このNP版ウィザードリィ、僕はあまり高く評価していない。はっきり言って、スーパーファミコン最末期のソフトとして残念なものだと思ってる。簡単に言うと、ファミコン版より良いものだと言いづらい。当時そう思っちゃったから、入手しておきながら約17年クリアすることもなく寝かせてたという経緯があった。
いや、まだ定価程度なら良かったんだが…現在の不釣り合いなプレミア価格に合うものとは思えないでいる。
そういう感想であり、いいところもあるけど、どちらかというと悪いところを書いていこうと思う。

「ストーリーオブリルガミン」のベースになっているのはファミコン版3作だ。マップもアイテム名もほとんどすべてがPC版ではなくファミコン版に準拠しており、ダイヤモンドの騎士がIIIなのもファミコン版のままだし、ワードナのHPがやたら高いのもクリアしたパーティでワードナと再戦できないのもそのまま。
特性値の上限も呪文の変更もIIIだけだし、タイトル画面でストーリーが出るのもIIIだけ。特性値ボーナスの上限もIだけ29で、II以降は60が出る。普通なら仕様を統一しそうなところも、ちゃんと不統一のまま移植している。
ファミコン版から追加されたダンジョンやモンスターなどは特にない。
追加要素は主にゲーム設計の部分にあり、遊びやすさというか、ぬるめの仕様が追加されている。

*ボーナス振り直し機能

キャラクターの作成時、Yボタンを押すだけでボーナスの数字が変化する。I以外ならボーナス60も現実的に狙えるぞ。

UnknownGame_7C5A7F82-24.png

これでもう「あ」を大量登録する必要もない。ヤベーイ!

*ソフトリセット&レジューム機能

LRセレクトスタート同時押しでソフトリセットできる。
するとタイトル画面にRESUME GAMEというのが出るので、これを選ぶと街はずれを経由せずにいきなり冒険が再開される。しかも通常のオートセーブとは別に保存されており、戦闘中にリセットすれば戦闘直前の状態からスタートし、マポーフィックなども切れていない。
完全にリセットをやりやすくするためだけの設計である。使ってもいいんだ。

*「かくれる」の追加

盗賊と忍者にV以降に登場した「かくれる」コマンドが追加。デメリットも若干あるが後列からでも攻撃できるようになり、盗賊がヒマではなくなった。
そんな変更邪道だ!と思う場合はオプションでオフにできるので縛るのも簡単。

*ターボファイルつき

ソフト内にはターボファイルと同等の機能を内蔵しており、セーブを増やすだけでなくキャラクターの転送も可能。
もちろん転送するとレベルが1になるのもファミコン版のままで、IIへの転送に限り性格の矯正が入るのもそのまま。ただしファミコン版ではできなかった過去の作品への逆転送も可能になっており、未来から称号集めたキャラをトレボー城に帰還させられる。
さすがに本物のターボファイル自体には非対応で、Vやファミコン版とのデータのやり取りは不可能である。

また言うまでもないがグラフィックも音楽もSFC仕様に改められている。イベントグラフィックも追加されていたり。
このように書けばマリオコレクション的な、ファミコン版の上位版のように思えるだろうが…

*音質が悪い

これがNP版の最大の問題だと思う。別にレトロフリークで音が鳴らせてないわけではない。
いや僕は音楽やゲーム音源に詳しいほうではないのだが、この音はやっぱり明らかに悪い。音の伸びが悪く、音色も良くなく、安物の楽器で素人が演奏したみたいな音が結構な頻度で聞こえてくる。皮肉にも元が名曲であるため、悪化しているのもわかりやすく、8bitの電子音に様々な感情を表現していたファミコン版と比べて良くなったとは口が裂けても言えない。
というか、比較対象とすべきはFCじゃなくSFCのVだが、あっちのほうがもっといい音が鳴っていたはずだ…
軽快だった街はずれの曲がゆったりした感じになるなど、アレンジの方向そのものもファミコン版と変えているようで、それ自体は悪くないように思えるのだが、アレンジ以前にその演奏の質が悪い。
なんでこうなってるんだろう。

※互換機で音質が変わるゲームもあるので、あらためてSFC実機とも聞き比べていますが、このゲームの音についてはレトロフリークの再現性自体には問題なく、実機でも同じという意見です。ただ、音質の問題は聞いている僕の主観の問題となり、しかも僕の音楽知識はたかが知れてますので、異論もあると思います。

*バグがある

当然ファミコン版#1のACバグ(ファミコン版#1は味方のアーマークラスが一切機能しておらず、攻撃側の敵のアーマークラスがそのまま味方の数値として計算される)は直ってるんですが、もともとACバグは#1にしかない。
ファミコン版IIとIIIにもそこそこバグはあるんだけど、ACバグほど影響の大きいものはなかったかと思う。いやバグが直ってること自体はいいことなんだ。問題はこのNP版には、ファミコン版に存在しなかった致命的なバグが追加されていることで。
通称「素早さバグ」の詳細は以前存在した解析サイトのアーカイブをリンクしておくが、簡単に説明すると、素早さが高くなると本来得られる行動速度の補正が得られず、代わりに最遅行動になる確率が発生するというものである。
ACバグが意外に体感できない理由は後で説明するが、素早さバグの影響もかなりわかりにくい。
「最遅行動になる確率が発生する」と書いたが、補正なしの状態と比べて「先手を取りやすい乱数を引く確率」自体はあまり下がっていない。
あえて雑な説明をすると、「もともと遅い行動を引く確率ぶんが強制再遅に悪化する」という感じ。
このバグは素早さ18程度では統計をとっても実感しにくく、しかしターンの最後に行動する確率がじわじわと増えていく。実感しにくいぶん余計厄介である。
むしろ実感しやすいのはプラスの補正が効いてないことで、通常のバージョンなら素早さ18あれば圧倒的に先手を取れるようになり、敵が行動する前に一気に壊滅させることが可能だったが、その信頼度が大きく低下する。縛りプレイをやらされているに等しい。
…いや、どうしろというのだ。素早さ14に留めるようレベルアップのたびにリセットを繰り返してもいいが、それって敵の先手で壊滅したときにリセットするのとどっちが正しい行為なんだ?
それをやったところで、本来得られる先手補正が得られてないことに違いはないのだ。ACバグ修正の代償には重すぎる。

*ゲームバランスが微妙に違う

主に#1の話だが、ACバグの修正以外にも幾つか違いがある。
ひとつは攻撃回数の仕様がファミコン版と違うこと。ファミコン版Iは冒険者本人の攻撃回数と武器の攻撃回数を足し算するのではなく、冒険者と武器を比べて大きいほうの攻撃回数に揃えられる。なんかバグっぽい計算なのだが、APPLE版からこの仕様だそうで、これについてはファミコン版のゲームバランスがおかしいわけではない。
でもこれは機種によっても違っており、ファミコン版でもI以外は足し算だったりするのだが、とにかくNP版は足し算を選んでいる。
またNP版は前衛職以外、たとえば僧侶や盗賊でもレベルアップで攻撃回数が増えていく。…これは普通に仕様ミスというか、プラス効果だけどバグじゃないのか?
ともかく攻撃回数に関して、味方の打撃は全体的に強化されている。逆に敵の打撃はACバグの修正で全体的には弱体化した傾向にあるはずだ。

で、この変更で簡単になったかというと、実はそんなに変わってない気がする。#1自体が魔法に比べて打撃の比重が小さいためだ。
たとえばカシナートの攻撃回数4回が7回に増えたら確かに強くはなっているはずだが、4回ヒットでもだいたいの敵は倒せることを考えるとそんなには効いていない。どうせ倒せる人数は1である。
また敵も同じことで、ファイアージャイアントやレベル8ファイターをウザいと思うことはあっても、恐ろしいと思ったことはないでしょう。ACバグが厄介なのは低レベルのニンジャ系がいつまで経っても恐ろしいことなど様々で、もちろん厄介ではあるが、実際これが大して影響のない敵も少なくない。
かくしてバグの修正と仕様変更で、味方の打撃は強化され、敵はおおむね弱体化したはずだが、それで劇的に変わったほどでもないなあというのが僕の感想だ。
ていうか、素早さバグによる難易度上昇を考慮すると、むしろ難しくなってる疑惑が。これはもうリセット押しやすくなったゲーム設計に甘えてしまってもいいんではないでしょうか。

あと、NP版はファミコン版と違い#1でもラカニトが無効化されない。

UnknownGame_7C5A7F82-21.png

こうなるわけだ!
ワードナ様はレベル10しかないのでラカニトへの抵抗率はわずか60%。魔法無効化自体は70%もあるので、普通の魔法攻撃やマバディなどを通すより、ラカニトで死んでくれる確率のほうが高い計算だ。
これはバグではなくてファミコン版IIIの仕様に合わせてるんだろうけど、ちょっとまずくないか?GBC版のワードナがレベル13に上がってるのはこれに気づいたせいかもしれない。
(IIもエンジェルやフィーンドなど一部の敵がラカニトを無効化できないというのは知られてるが、これって実はIIもIIIと同じでラカニト自体無効化できない仕様じゃないのか?と疑問を抱いたものの調査してない)

*画面が暗い

これはもう些細な話ではあるし、リルガミンサーガでも思ったけど、明かりがついてないときの迷宮が必要以上に暗い気がする。それはいいとして。

UnknownGame_7C5A7F82-12.png

ミルワかけないとモンスターも暗いのはやめていただきたい。暗い状態だとカンテラで照らしたみたいなアニメーションが追加されており、描写にこだわってるのはわかるが、せっかくのグラフィックが観察しづらい。モンスターのグラフィックは本作でも確実に褒められる要素なのに…
特に新規に始めた冒険者はミルワなんて覚えてないので、最初に出会うモンスターは絶対暗くなってるため、単純に本作の第一印象自体も暗くなるということを述べておく。
これこそオプションで何とかできるべきではないのか。ロミルワくらいケチらずに使えってことだろうか。
(迷宮を線画にすると暗いエフェクトは消える)

UnknownGame_7C5A7F82-9.png

こういう透けてるモンスターがいるのは面白いと思う。

*挙動がすごく快適というほどではない

ファミコン版の処理、特に迷宮内の移動が異様に早いのはご存じかと思うが、正直に言ってNP版のスピードは劣る…
キャンプや宝箱でカーソルの位置が自動で動くなど操作性が良くなってる部分もあるが、単純な処理速度に関しては本作は負けていると言わざるを得ない。
もっともダンジョンRPGとしては特別遅いほうではないとは思う。

*メッセージが全体的に変更されている

Wizardry - Proving Grounds of the Mad Overlord (Japan)-0UnknownGame_7C5A7F82-7.png

このシーンに限らずファミコン版と全体的にメッセージが違う。どっちがいいとは言わないけど、変化しているという事実は述べておく。
正確に比較していないが、NP版のシナリオは後で発売されたGBC版とだいたい同じかと思われる。

なお「ル’ケブレス」が「エル’ケブレス」に変更されたのがこのNP版。海外でエルと発音されていたのを見たから自主的に変えた旨が当時のファミ通64だったかファミ通だったかに書いてあったと記憶しているが、手元に記事は残っていないので正確な情報ではない。

*説明書がしょぼい

こればっかりは仕方ないが、ニンテンドウパワーの説明書はペラ1枚の裏表だけ。
実はこれもアーカイブ現存してる。ニンテンドウパワー新作ソフトのページのアーカイブのリンク先のpdfファイル参照。
書き換え版の説明書「遊び方シート」はサービス途中から29円に値上げされたが、もらわなくてもこのように無料で公開されていた。
もちろんペラ1枚で説明が足りるわけもなく、上記で説明した追加要素も、キャラクターの転送方法すら書かれてない。
Yで振り直しなどの追加要素は発売当時ゲーム誌に書いてあったことは覚えており、別に隠し機能ではないはずなのだが…
ストーリーもファミコン版同様、III以外はゲーム内で説明されていないが、NP版は説明書にも書かれていないので冒険者は何のために戦っているかすらわからない。このゲーム買うような人ならどっかで見る機会もあるだろうけどさ…

*パッチを当てて完全版に?

いろいろ悪く書いてきたけど、素早さバグ以外は些末な問題かもしれない。そのバグにしろ、別に非公式パッチを当ててもいいんだけどさ…
レトロフリークにもパッチ当てる機能あるし、素早さバグの修正パッチは存在するようだし、それで吸い出し失敗してるっぽいこのROMにパッチ当てられるのかは調べてないけど。
世の中にはパッチ当てたものをROMに焼き直して実機で遊ぶ気合の入った方もおられるようですし、別にやってもいいと思うんですけど、そういうアレな手段前提で行くならファミコン版にパッチ当てればいいんじゃないの…?

*販売状況

本作の書き換え開始はSFC最末期の99年6月。時代はファイナルファンタジー8とか売ってた頃である。
価格は3000円。これはニンテンドウパワー最高価格で、本作が唯一だったはず。トラキア776でさえ2500円なんだから、かなり高いほうだった。SFメモリカセット自体が3980円(税抜き)なので、定価は税込みで7000円ちょっと。総額だとさらに高いと感じるだろうか。
96年あたりまではSFCソフトが1万円を超える時代があったが、さすがにこの99年はプレステへの移行も進んでたし、少数出るSFCソフト自体もだいぶ値下がりしており(たとえばロックマン&フォルテが5800円だそうだ)、書き換えによるメモリカセットの償却を考慮しても比較的高価格であったと思う。
なにしろNP版より先にリルガミンサーガのベスト版が2800円(税抜き)で出てる…ハードとゲーム内容が全然違うとはいえ、その違いを意識してるユーザーがどれほどいたことか。

当時の僕が結構高いと感じたのはしょうがないと思っていただきたいが、それでも入手はした。そしてやり込むほどは遊ばなかった。
それは既にリルサガ(サターン版)とGBC版を立て続けに遊んでいたせいもあった。在庫に限りがありそうなGBC版と違って、書き換え専売の本作は絶対に売り切れることはなかったため、値段で二の足を踏んでいた僕も悠長に発売2年後くらいにこれを入手している。
そして本作は2002年8月末、ニンテンドウパワーのローソン撤退と同時に書き換え終了している。知っての通りニンテンドウパワー自体は任天堂本社で2007年まで継続しているが、ウィザードリィはそれより先に終了した。タイミングをローソン撤退に合わせているようなので、版権料とかの問題で不採算になったのだろうか。
だからプレミアがつくのも無理はない…のだろうか?
宣伝自体はゲーム雑誌でそれなりに特集されていたはずなのだが、行き渡ってはいなかったのか。あるいは他人に勧めるほど出来が良いわけではなかったのも市場にあまり出回っていない理由ではないだろうか。

ストーリーオブリルガミン、駄作と言うほどダメでもなし、希少価値を考慮して定価越え程度は仕方ないとしても、数万円のプレミアに見合うほどの作品でもないというのが当ブログの率直な意見となる。
稀少なのを知りつつ17年寝かせた挙句互換機で動かしてる僕が偉そうに言えた筋合いでもないか…