神殿岸2

2と言っても実質1.5みたいなもの

ファミコン神拳とファイナルファンタジー

たまに界隈で話題に上がる、「ファミコン神拳がFF2をディスった件」というのがある。
ファミコン神拳』は週刊少年ジャンプで88年まで不定期連載されていた、ファミコンゲームを紹介する連載記事だ。
執筆は「ゆう帝」こと堀井雄二を中心に集まったメンバー、ファミコン界とも関わりが深く、『ドラゴンクエスト』誕生にも重大な影響を与えた。

らしい。
はっきり言ってそんな昔のことは知らん。私はファミコン神拳が掲載されてる当時のジャンプなど、見たこともない。

FF2の話だ。レビューが掲載された1989年当時、FFの勢いは今ほどではないにしろ、十分知名度はあったはず。数年後のSFC時代にはドラクエと並び立つ2大RPGのイメージにまで成長する。
そんなライバルを、ドラクエとも関わりの深いファミコン神拳のライターたちがディスっていた。それは結構大きなことに思える。

このレビューは復刻済みだ。2016年に出た『週刊少年ジャンプ秘録!! ファミコン神拳!!!』というタイトルで、連載のかなりの部分が再録されている。
「復刻!あたた独断採点拳!!」本書の後半にレビューコーナーも再録されている。
問題の記述は本書の151ページ、「1989年 新年10号 2月20日号」。

>前作が大好評だった、噂のファンタジックRPGの第2弾!!

キム皇(木村 初)
>アイデアは斬新だし、ドラクエを超えようとする姿勢はいい。ただ、ゲームそのものが練れてなく、不快感もいっぱい。ゲームの勉強のためなら買うけど、遊ぶためなら買わないな。 【40点】

コマル大王(小丸 良人)
>シナリオが一本道で細かすぎるよ!! 自由が全然きかないしゲームバランスも最低!! 戦闘アニメはタルイしパーティーアタックも各数値を上げるためにしか使えない!! 作りが雑すぎ!! 【15点】

カルロス(とみさわ 昭仁)
>物語の見せ方、世界のわかりやすさなどはスグれている!! でも、その物語を形づくる基本のゲームシステムが面倒くさいデスね。ミーは発売前から期待していただけに、残念ですッ!! 【40点】

うん…だいたいその通りかと。
ライター陣はFF1を既に高く評価していた前提があり、その上で2の不満点について、もっともなことを書いていた。
うち一人はシナリオを悪く言い、一人はストーリーを評価してるという差もありますが、いずれにしろちゃんとプレイして評価してますね。
あと15点はともかく、40点ってのはそこまで低くもないのだ。キム皇ならベタ褒めのファミコンウォーズで60点とかだった。ここの40点、これは文面の示す通り半分くらいは褒めてるってことである、新品で買いに走るほどじゃないにしろ。
また、同時期に発売した半熟英雄ならキム皇が70点、コマル大王が75点、カルロスが40点。こちらのほうが遥かに高評価であり、スクウェア社に対する感情も別にないと考えられる。
これはFF2が悪い

この評価は、今振り返っても不当なものとは考えられない。FF2って、いろいろパラメータが大雑把だし、ストーリーは一本道だし、ストーリー外れた地域に行くといきなり強い敵出るし、育成もめんどくさいし、何より魔法の演出が遅い!
私もイエローソウルにブチ切れて投げ出しそうになったことがある。

そして、FF2の世間の評価がこれに引っ張られたというほどの影響もしておるまい。
ファミコン神拳にはFF2に60点つけられるほど刺さった担当がいなかったのだろうというだけのことであり、世間もだいたい同じだと思う。
人によっては15点もしょうがないでしょ…あんなクセの強いゲームだし…
クロスレビューの本来の意図は、こういう評価を引き出すことにこそあるはずだ。これこそ世間で言われてることですね…

また、このレビューが載るより前の号、本書の63ページに収録されている1989年 新年1・2合併号(1月7日号)のファミコン神拳にもFF2が掲載されている。
「最強RPGを探せ!!」と題して、「大好評だった前作に続いて」として、新作のファイナルファンタジーIIを大きめに扱っていた。レビューであげたような欠点を一切書かず、新システムと共に好意的な紹介をしている。
…これ、掲載時期から考えて、後のレビューのほうがFF2の世間の評価を反映してるんじゃないの…?
ファミコン神拳の「奥義袋とじ」というコーナーは、このRPG特集が最終回で、経緯は知らないが、前述のレビューは終了後に別に載ったもののようだ。

ファミコン神拳はFF2に対して、不当な評価などしていなかった
もちろん堀井雄二も直接書いてはいない。ドラクエの身内側の人間が書いてたくらいの話。
だが今振り返ると無視できないエピソードになってしまってるのも、そうなのだ。

堀井さん自身、ドラクエで自分のやってたことはステマみたいなもんであることを、後年に冗談交じりではあるが述べている。

“黒川塾 十弐”開催 『ドラゴンクエスト』の堀井雄二氏が語る“人を驚かせる発想” チー○やス○マのお話も!? - ファミ通.com (famitsu.com)

ドラクエ1時点ならまだしも、88年あたりで自分自身がトップのゲーム開発者になっていく中で、ファミコン神拳との関わり方について一定の引っかかりは持っていたと思う。

この2016年のファミコン神拳のインタビューで、ファミコンジャンプについて、鳥嶋和彦氏らがもっとはっきり言ってる箇所がある。

P77 鳥嶋和彦氏のインタビュー ファミコンジャンプIIの開発経緯について

>あれは前作が圧倒的に評判が悪くてね。特に堀井さんが、こんなもの記事で紹介したくない。『ファミコン神拳』に嘘ばかり書くのやだ、と。

>堀井さんをはじめ『ファミコン神拳』のメンバーも誌面では自分たちが『ファミコンジャンプ』を推薦しているように見えてしまうから前作にはすごく複雑な思いがあったんだろうね。

P94の座談会でも堀井氏が

>ぼくは……ぶっちゃけて言ってしまうと、バンダイさんが作るジャンプのキャラクターゲームが、記事にしづらかったね。

堀井氏もどのタイトルとは言わないが、かなり厄介には思っていたようだ。『マッスルタッグマッチ』は面白かったとも言ってるので、全部ではないのだが。
ファミコンジャンプを100万本レベルで売ってしまった事実、鳥嶋氏らは現在でもかなり気にしている。これは重い事実だ。
あれそんな重いゲームだったのか。

FF2に対しては、堀井雄二自身の手によるものではないが、ファミコンジャンプの逆みたいなことも確かにやっていた。
ドラクエの身内はバンダイさんには忖度してるのに、ライバルには堂々とした批判!

もう一つ厄介なのはファミコン神拳の保存性の低さだ。実際にリアルタイムで読んでいたとしても、誌面を保存している人間はごく一部。
「初期FFに低評価していた」という、あやふやな記憶、印象だけが残っていってもおかしくない。
あやふやな記憶はネットで拡大される。このへんは実際の記事の画像とかはほぼ出てこないので、記憶だけで書いてるんだろうと思うわけであるが。
FF1についての記事は、本書に収録されていない記事で扱っていたらしい。おそらく大した扱いもしていなかったのだが、わからん。
FF2の記事で前作は普通に大好評って書いてあることから、過去にディスもしてなかったのだろうと考えるのみだ。
そしてFF2に対しては、常識的な範囲で悪く言ってました。

ジャンプ自身はFFが2大RPGへと成長していくことを予見できていなかった。FF2の低評価はその象徴でもある。
別に、こうして現在の視点で振り返っても悪いことは特にないのだが、FF2が刺さった側の人間である私としては、やっぱりそれでも40点は低いんじゃない?という引っかかりにはなる。
その後の5までFFを扱ってなかった(らしい)という話と共に、「昔はドラクエの身内がライバルをディスってたぜ」とネチネチ言われるのも仕方ないものと考える。そこに堀井雄二自身とエニックスが大して関与していないとしてもだ。

であれば。
それを隠蔽せず、こうして再録してるという事実も評価したいわけである。ファミコンジャンプへの重い後悔と共に…
堂々としていればいいのだ。

むしろ、逆。
その後のFF3についても、鳥嶋氏は坂口博信にかなりのダメ出しをしたというエピソードがあるのだが、そんな話は当時の誌面に載ることはなかったはず。
姿勢は一貫するべきじゃなかったのか。
私はジャンプと組んで以降のFF、5も6も7も完璧なゲームとは思ってないぞ。あれらに対して、悪いところは悪いと正直に言っていくのがファミコン神拳のようなものに求められていたのではなかっただろうか。
こういう力が弱くなっていったから、勘違いしてスクウェア叩けば通ぶれる人とか出てくるんでしょうが。
他方でスクウェア広報も調子に乗って、レーシングラグーンの批判的レビューに圧かけた事件とか起こしていく。

89年までの体制のファミコン神拳も、この次の回で終わっちゃったようなので。その後『ファミコン怪盗 芸魔団』ってのを三条陸が参加してやってたらしいが、知らん。
思うにジャンプとコアなゲームファンが微妙に噛み合わなくなっていったり、優秀なライターが他業界に移ったり、他社のゲーム誌が伸びてきたり、批判的レビューって読んでてしんどいとか、いろんな影響もあるだろう…
よくわからないけど。

(いずれ別記事で触れるつもりだが、事実としてジャンプが推し始めた(らしい)FF5の出荷数は前作から100万本増えているのである。
それがジャンプの力であるか、かなり怪しいと現在の私は考えているが、この記事で扱う内容から外れる)

まとめ

ドラクエに乗っかかってたファミコン神拳がFF2をディスってた」のは明らかな事実。
だが、そこに不当な評価はない。

この件に関して、ファミコン神拳ドラゴンクエストを批判して広めてるような者がいれば、それは事実を歪めている可能性が高い。
堂々とした批判を書いて文句を言われる筋合いはない。それがゲーム業界の関係者であってもだ。

だがそれは私の意見だ。
不当な評価じゃないことを踏まえても、ファミコンジャンプ売りながらFF2をディスったファミコン神拳は気に入らねえ、スクウェアも気に入らねえということを言う人が20年30年経っても存在していても仕方ないとも思うわけで。
それは、今振り返ると十分事件性のある話ではあったと思う。

補足:ファミコンジャンプについて

ファミコンジャンプ英雄列伝』悪いところはかなりあるゲームだけど、言っても明確にクソゲーというほどのもんではないよ。
ストーリーとゲームシステムがちょっと面白くなくて、ドラクエ3の翌年のRPGにしてはセーブ機能もないし操作感も悪くて全体的に出来が悪いくらいです。
「普通に出来が悪い」の域を超える駄作ではありません。

しかし、その程度の内容の割に100万本以上売れたらしいんで、鳥嶋氏が気にするのも当然です。
ただ内容とは別に出荷しすぎて余っていたような話も聞きます。それでもかなり売れたのは間違いないですが、正確な需要がそんなにたくさんあったのかは、よくわかりません。

CMの動画があった。このCMで言ってるようなバトルはラスボス戦までできません。このラストバトルだけ普通に面白いです。昔の本にもそう書いてありました。
普段の戦闘はゼルダの伝説の劣化版みたいなもんですが、RPGって言ってるからRPGなんでしょうね…